足りない賃料補助、飲食店を追い込む遅い政治 少なすぎる経済援助が現場を苦しめている

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遺書が見つかっていないが、まるとし店主は資金繰りに悩んで思い詰めたのではないか。八王子市でとんかつ屋を40年営む「煉瓦屋」店主は、「利益率が低い飲食業の中でも、自営業のとんかつ屋というのはとくに利幅が小さい」と話す。「ご飯やみそ汁、キャベツのおかわり自由は当たり前の世界だから原価率は高く、自営でやるなら国産の良質な豚肉を仕入れ続けなければならないので、どうしても自転車操業になる。回転が遅くなり、現金が入ってこなくなると一気に傾くのがこの業界だ」。

近くに高尾山と大きな霊園があるため登山客や法事客が多い煉瓦屋も苦しい。今は登山も墓参もなく、営業時間を短縮した。売上高が急激に減る一方、人件費と賃料の固定費は変わらず毎月出ていってしまう。「賃料については先日、不動産オーナー側と交渉した。国の補助策が固まれば改めて交渉するつもりだが、今はどういう策になるのかが気になっている」という。

「この国の豊かな飲食産業は、自転車操業で汗をかいている人たちが支えている。政治家の方々には、そこをよく理解していただき、一日も早く支援策をまとめてほしい」(店主)

撤退を検討する事業者は増加の一途

立憲民主、国民民主、共産、社民、日本維新の会の野党5党は4月28日、国会に「家賃支払いモラトリアム(猶予)法案」を議員立法で共同提出した。対象となるのは前年比で売り上げが2割以上減った事業者で、賃料を日本政策金融公庫が一時的に肩代わり(代位弁済)し、事業者に経営体力が戻ったら金融公庫に返済していくスキームだ。

助成ではなく猶予が基本だが、上限額がない仕組みと「5月の支払いに間に合わせる」(立憲民主の安住淳国会対策委員長)スピード感で、中堅のテナント事業者からは期待にする声があった。しかし与党は野党案には乗らず、第1次補正に賃料支援策は入らなかった。与野党の足並みがそろわない中、賃料を払えずに店舗からの撤退を検討する事業者は増加の一途をたどっている。

そのことは、原状復帰をしないまま撤退したい事業者と居抜きでの入居を希望する事業者を結び付けるマッチングサイト「退去NAVI」の新規登録者が急増していることからもわかる。

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