日本にはなぜ"マルチアスリート"がいない? 中学最速スプリンターが野球を選んだ理由

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全日中の100mでは、準決勝のスタートがうまくいかずにギリギリ通過。しかし、決勝では、「準決勝はスタートしてすぐに上体が起きてしまい、前傾できなかったので、その部分を意識して走りました。スタートはこれまでの100mレースでいちばんよかったです」と抜群の加速を見せて、0.01秒差の大接戦を制したのだ。

五十幡の“脚”は野球界でも最速!?

ちなみに五十幡の100mベストは10秒78。一般の方はピンとこないかもしれないが、実際、どれぐらい速いのか。元野球部員のためにも、こんなデータを紹介したい。野球に詳しいスポーツライターの小関順二氏によると、五十幡がある試合で3塁打を放ったときの3塁到達が「10秒76」で、小関氏が計測した中では、プロ野球選手を含めても“日本人最速タイム”だというのだ(小関氏が計測した中では、日本ハム・杉谷翔が11年10月18日の西武戦で計測した10.90秒が2番目のタイム)。

スプリント種目で堂々の2冠を達成して、“中学最速”の称号を手にした五十幡だが、夏休みはシニア野球の大会があり、陸上の練習はほとんどできなかったという。それでも、中学ナンバーワンを勝ち取ってしまうほど、そのポテンシャルはずば抜けていた。そんな五十幡に、高校では野球か陸上かどちらをやるのか尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「陸上もやってみたいと思うんですけど、高校ではやっぱり野球ですね。陸上の練習をやって、身体がブレなくなりました。1番バッターで脚を生かした選手として活躍したいです」。ちなみに好きな選手は「イチロー」だという。

20校以上の野球強豪校から勧誘を受けた五十幡は、佐野日大に進学。春からは“二刀流”を封印して、野球1本に絞ることになった。陸上競技をメインに取材している筆者からすれば、この選択はすごく悔しいし、もったいないと思う。そこで、中学でチャンピオンに輝いた選手が、なぜ陸上を続けることができないのか。その理由を考えてみた。

陸上は野球よりも魅力がないのか?

近年はイチローやダルビッシュの活躍もあり、メジャーリーガーを夢見る野球少年たちが増えている。少年たちにとって、華やかな世界で活躍するアスリートはまぶしく見えるはずだ。しかも、その“報酬”はスポーツ界の中でも、抜群に恵まれている。「野球」と「陸上」を天秤にかけた場合、アスリートとしてのポテンシャルが同程度なら、「野球」を選択するのはごく自然なかたちだろう。

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