「夏の甲子園中止」を嘆く大人たちに欠けた視点 新しい野球への転換をできるのは今しかない

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さらに、新型コロナウイルスの終息は、2022年になるとの観測も出ている。日本高野連は、それを見越した中長期的な計画を立てることが必要ではないだろうか。

少なくとも来年夏の甲子園を開催したいのであれば、地方大会を比較的安全な時期に実施。最悪のシナリオで計画を立てて、事態が好転すれば、その都度、計画を組みなおせばよい。

さらに新型コロナ禍の後には、かつてないような経済不況が到来すると考えられている。

野球は今では「金がかかるスポーツ」になっている。用具や設備費、遠征費など大きな負担が親にのしかかる。親の経済環境が不安定になれば、野球を断念する子どもも増えてくる。

今でも「野球離れ」は深刻だが、経済不況になり世の中が「野球どころではない」事態になれば、野球競技人口は、激減する。今の「夏の甲子園」は、47都道府県から代表校を出しているが、参加校数の減少で、単独では地方大会が開催できない県も出てきても不思議ではない。

そういう事態を見越して「金がかからない野球」の可能性をいまのうちから探る必要がある。用具、ユニフォームなどの厳しい規制を緩和したり、学校のグラウンドでの公式戦の開催を認可したり、存立が厳しい地方の公立校に助成を行う、野球部へのスポンサードを認可するなど、高校野球を維持するスキームを、日本高野連が主導して策定すべきだろう。

この際、行き過ぎた勝利至上主義や、球児の健康を軽視した練習、試合での酷使など、制度疲労を起こした高校野球の体質改善に取り組むべきだろう。こうした「昭和の体質」が野球離れにつながっているからだ。

これを機に高校野球も生まれ変わるべきだ

これらの課題は、高校野球だけのものではない。プロ、社会人、大学、独立リーグ、女子野球、ソフトボールなど各団体も交えて考えていく必要がある。

すでに日本サッカー協会は(JFA)は財政難に陥ったクラブチームやスクールを対象に、JFAの自己財源から直接融資を行う「新型コロナウイルス対策 JFAサッカーファミリー支援事業」を立ち上げた。こうしたケアを野球界も全体で考える必要がある。

多くの識者は、新型コロナ禍が終息した社会は「元の社会とは同じではない」と言っている。高校野球、日本野球も「前と同じ状況が戻ってくる」ことはないはずだ。

であれば「新しい社会」に適合した、「新しい野球」を構築しなければならない。そのための「パラダイムシフト」を、高校野球自らが起こすべき時が来ている。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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