「濃厚接触」を検出するアプリを使うべき理由 アップルとグーグルが「すれ違い」を記録する

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アップルとグーグルの取り組みを最も簡単に説明するなら、「すれ違いの記録を残す」というものだ。

古典的な接触検出は、日本でも行われてきたように、感染した人の行動を聞き取り、そこで接触した可能性がある人を発見していくというものだ。保健所などは多大な労力に追われ、また本人が情報提供を拒む場合、濃厚接触のルートをたどることができなくなってしまう問題があった。そして前述のとおり、都市生活における移動中の接触をすべて洗い出すことは不可能と言える。

つまり、一定時間同じ空間に居合わせたことを検出することで、不特定多数の人同士の接触を記録する必要がある。そこでアップルとグーグルは、スマートフォンにおいて、超低消費電力かつ通信範囲が限られているBluetooth LEを用いて、すれ違った人同士の「カギ」を渡して、周りの人の「カギ」を受け取る仕組みを作った。

街の中で、自分のカギを身近な場所にいる相手全員に渡し、周囲の人全員のカギをもらうという作業を、スマートフォンが自動的に行っていくことになる。

この「カギ」は、スマートフォン毎に24時間ごとに作り替えられ、個人を特定するIDとはならない仕組みとなっている。また、15分ごとに識別子が変わる仕組みにもなっており、カギによる個人の追跡も難しくなっている。加えて、Bluetoothで送信される情報はすべて暗号化され、データは14日間一時的に保存されるにすぎない。

また、このカギの交換にアップルとグーグルは参加しないが、感染が終息し、この仕組みが不要となった場合、地域ごとにアプリを無効化し、政府当局が別の目的のために活用できないようにすることはできる。

GAFAに含まれる2社は、個人の居場所やつながりなどを追跡できるカギの情報を収集しないため、GAFAが世界中の人々の感染状況を把握する、といった理解は間違いだ。あくまで、スマートフォンを持つ個人間で、匿名化されたカギを交換する仕組みを構築したにすぎない。

どのように通知を受けるか?

通勤や通学、買い物などをスマートフォンとともに行うと、すれ違った数だけ「カギ」を集めることになる。その集めたカギの持ち主に新型コロナウイルスの陽性が判明しない限り、アプリから通知を受け取ることはないだろう。

もしも、すれ違った人のうちの誰かが陽性となった場合、アプリを通じて医療機関が陽性に設定することで、その患者のカギは「陽性カギ」となり、陽性カギを持っている人に通知が届くことになる。

その通知を頼りに、医療機関を受診したり、検査を受けることによって、自覚症状がなくても、新型コロナウイルスの拡散を食い止める行動を起こすことができる。これにより、経路不明の市中感染の拡大を抑制する効果を狙うことができる。

もちろん、この通知を受け取った人が必ず感染しているというわけではない。ただその可能性を示唆しているにすぎないが、通知を受けた人が積極的に検査を受けることで、より的確な検査を実施することにつながる。

最新のアップデートでは、陽性カギを受け取った回数(暴露回数)を計測する機能を追加できるようにした。加えて、ユーザーの同意を得て電話番号などの連絡先を取得し、暴露がわかった際に衛生当局が本人に連絡を取る手段を担保することもできるようにした。

この1カ月、各国政府や衛生当局、研究者などからの意見を聞き、改良を加えてきたことがわかる。

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