コロナが露わにしたビッグ・データという幻想 ポスト・グローバル化時代の「生命」と「情報」

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以上、大きな歴史の流れを振り返りつつ、感染症の爆発的拡大が生じやすい要因として、「グローバル化」と「格差・貧困の拡大および都市環境の劣化」の2点を挙げたが、この両者が極限的な形で進みつつあるのが現在の世界だろう。

そうした意味では、今回の新型コロナウイルスの蔓延は、これまでの歴史の流れに照らして見るならば、ある種の必然的な出来事と言える面すら持っているのである。

「ポスト・グローバル化」の2つの道

誤解のないよう述べると、私はここで、‟今回コロナ・パンデミックが生じ、その背景にはグローバル化があるので、よってグローバル化を即刻停止すべきだ”といった単純な主張をしようとしているのではない。

状況はある意味でもっと根本的であり、つまりコロナの発生の有無とは独立に、現在の世界では「グローバル化の終わりの始まり」と呼べる大きな流れが生じており、あるいは「ポスト・グローバル化の世界」を構想すべき時期になっているのだ。

コロナ・パンデミックはそうした構造的変化を明るみに出した事象の1つ――あるいはそうした移行への‟ハード・ランディング”を余儀なくさせた出来事――と言うべきだろう。

こうした「グローバル化の終わりの始まり」あるいは「グローバル化の先の‟ローカル化”」という主張を、私は『創造的福祉社会』(2011年)、『ポスト資本主義』(2015年)そして『人口減少社会のデザイン』(2019年)等の一連の本の中で展開してきたが、そのポイントとなる事柄をここでごく簡潔に述べてみたい。

イギリスのEU離脱(いわゆる‟Brexit”)と‟トランプ現象“と呼ばれる動きを見てみよう。あらためて言うまでもなく、私たちが現在言うような意味での「グローバル化」を明示的に本格化させたのはイギリスである。

つまり同国において16世紀頃から資本主義が勃興する中で、例えば1600年創設の東インド会社に象徴されるように、イギリスは国際貿易の拡大を牽引し、さらに産業革命が起こって以降の19世紀には、“世界の工場”と呼ばれた工業生産力とともに植民地支配に乗り出していった。

その後の歴史的経緯は省くが、そうした‟最初にグローバル化を始めた国”であるイギリスが、経済の不振や移民問題等の中で、今度は逆にグローバル化に最初に「NO」を発信する国となったのが今回のEU離脱の基本的意味と言うべきである。

アメリカのトランプ現象も似た面を持っている。20世紀はイギリスに代わってアメリカが世界の経済・政治の中心となり(パクス・アメリカーナ)、強大な軍事力とともに「世界市場」から大きな富を獲得してきた。

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