日本の住宅が「暖房しても寒い」根本的な理由 20年前の「断熱基準」さえいまだに達成できず

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このように、確かに断熱性能は重要な指標である。だが、それだけで住宅をすべて評価するのは早計だ。断熱性能を上げようとすれば、熱損失の大きい窓は小さくなる。高温多湿の日本において、風通しはとても大事だ。この風通しをどれだけ確保しているかを比べるには、別の指標を用いたほうがいい。それが「暖房負荷」の数字である。

暖房負荷は、住宅の1平方メートル当たりにかかるエネルギー量を比較する。前のページの比較表を見ると、その数字が小さいほど高性能ということになる。性能がよければよいほど、使うエネルギーは少なくて済む。それだけではない。住宅の内部の環境もどんどんよくなってくる。暖かい家にいると健康にいい。体温が上がり、免疫力もアップするだろう。ぜんそくやアレルギーが治り、新型コロナウイルスのような感染症にもなりにくくなるかもしれない。

温熱計算ができない工務店は、家を作る資格なし

もし皆さんが暖かい家を手に入れたいと思うのであれば、ぜひこれまで述べたような基礎知識をつけてからオーダーしてほしい。

では、オーダー先となる「いい工務店」は、どのようすれば見つけることができるだろうか。工務店に「住宅の気密測定はしていますか?」あるいは「住宅の性能を1つずつ計算していますか?」と聞けばいいのだ。それで、住宅の気密に対する知識と経験があれば、合格。また、1つひとつ、上記のような温熱計算をしているのであれば、合格である。

もうお気づきだろう。ここでいう温熱計算で出される数字は、実は燃費のことなのである。自動車だったら、営業マンが「この車は燃費いいですよ」と言えば、「リッターあたり何キロぐらい走るのか」と気になる。その答えが示されないまま、いくら「燃費がいい」と言われても、判断できるものではない。車よりもはるかに長持ちし、一生ローンを払い続ける家にも、燃費はあってしかるべきだ。それを計算できない工務店や設計士は、家を作る資格がないのではないか。

確かに、断熱性能をよくすれば快適になるが、初期費用もかかる。断熱材や窓の性能を上げるだけで従来仕様よりは150万〜200万円も上がってしまう。だが、3LDKで4室それぞれにエアコン設置しているのが、今の日本の住宅なのだ。断熱性能の高い「暖かい家」に必要なエアコンは1台あるいは2台だ。初期投資は「暖かい家」のほうがかかるが、エアコンの買い換えや光熱費などを計算に入れると、どちらがコスト高になるのか、そう遠くないうちに判明するはずだ。

今回のコロナ騒動で、家にいる時間が圧倒的に増えている。これから冬になるが「暖かい家」に暮らせば体温が上がるので免疫力も上がり、感染や重症化も回避できる。加えて、快適に過ごせるのである。これから家の購入を考えている方は、ぜひ参考にしていただきたい。なお、この記事は新築住宅を前提として書いたが、改築でも同じように断熱強化することは可能だ。次回はリノベーションについて書いてみたい。

竹内 昌義 建築家、大学教授

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たけうち まさよし / Masayoshi Takeuchi

1962年生まれ。東京工業大学大学院修了。1991年に竹内昌義アトリエを設立した後、1995年に設計事務所「みかんぐみ」を共同設立。2001年からから東北芸術工科大学(山形県山形市)の建築・環境デザイン学科准教授となる。2008年から同教授。山形エコハウス(山形県が事業主体、環境省の21世紀環境共生型モデル住宅整備事業の一つとして選定)をきっかけに、環境・エネルギーに配慮した住宅を設計、紫波町オガールタウンの監修などを手がける。『図解 エコハウス』『原発と建築家』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

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