ネット選挙が”メディア変革”をもたらす 私が感じたメディアイノベーションの胎動
ただ、それは取材するメディアの側も同様だ。選挙前に通り一遍の出馬動機や政策を聞いて、後は家庭環境や趣味など尋ねる「横顔」取材。初日の第一声はマイクの束を持った候補者が声を張り上げる姿を、カメラが均等の画角で撮影し、最後は当選者の万歳シーンで締める、といった具合だ。
テレビだと「演出」もある。私が都議選の開票日に鈴木寛・参院議員(当時)と候補者の事務所回りに同行した際、当選した新人の万歳がNHKの“指示”で撮り直しになったことがあった。その担当記者曰く、候補者の傍らに翌月の参院選に出馬する鈴木氏が映り込んでいたので素材として「使えない」というのだ。神経質としか思えないが、これもすべて「公平性」への配慮から。同時にそれはルーティン化した選挙取材から、面白味や創造性を失わせているとも感じた。
しかしインターネットが、候補者もメディアも伝統芸能化していた選挙に変化を与えつつある。参院選ではミュージシャンの三宅洋平氏(緑の党全国比例)が17万票と大政党なら当選ラインを超える票を集めたが、ネット選挙解禁により「選挙フェス」と銘打った彼のライブイベント風の街頭活動の様子が、シェアされやすくなった影響が大きい。都知事選では私も参加した家入一真氏の陣営が、ネットで政策アイデアを集める対話型のネット選挙を展開して注目された(詳細は前々回)。
型破りな候補者たちに戸惑うメディア
伝統の「型」を破る候補者が現れれば、取材側も勝手が違うので戸惑う。選挙戦の第一声といえば、ターミナル駅前で候補者がマイクの束を持って声を張り上げるのが「定番」だ。しかし都知事選の初日、家入氏は渋谷のカフェからスマートフォン中継によるツイットキャスティング(ツイキャス)で第一声を発信した。このとき報道陣は、ツイキャスを始める前の家入氏にマイクの束を持たせて意気込みを語らせたことがあった。演説経験のない本人は、当然、戸惑う。伝統にこだわる報道陣と新風を吹き込む候補者とのギャップを象徴するシーンだった。
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