24歳でプロ野球をクビになった男が説く転身術 アスリートが優秀ビジネスマンになるために

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今そこにいるのは競技をクビになったからで、その仕事をやるのは、ルーキーだから。競技への思いが完全な形で決着がついている場合、これらをまるっと受け入れられる。仮に過去を振り返りそうになっても、「ま、あれだけやってダメだったんだから、今ここで頑張るしかないな」と、今への集中力が復活する。

過去は、間違いなく財産である。しかし、財産は活用してこそ意味がある。それは、そこにすがりついて威光を発揮することではなく、自信と誇りを持って、「さすが元プロアスリート!」と言われる成果を出すことである。

最初のうちは、「元プロアスリート」という肩書はそれだけで価値がある。その肩書が価値を発揮しているうちに次の世界へうまく接続できれば、「元プロアスリート」は究極の”付加価値“となる。「元プロの◯◯さん」から、「◯◯さんは元プロだったらしい」と呼ばれるようになるあたりが、その変わり目だ。

4つ目は、体が変化することを知っておく、ということ。これは、実態のつかみづらいメンタルの話ではなく、実際に体に起こる変化だ。どこに変化が起こるかと言うと、心臓と脳である。言うまでもなく、プロアスリートになるくらいの人は幼少期から激しいトレーニングを積んでいる。

毎日激しく動かしていた体が急に動かなくなると

私の場合だと、小学校4年生から24歳で引退するまで、ほぼ毎日練習をしていた。オフで体を動かさない日が2日と続くことはなかったし、たとえ軽い練習だったとしても、心拍数は少なくとも150を超えていた。試合で緊張すると、200近くになることも珍しくはない。ところが、引退すると心拍数が100を超えない日々がずっと続く。20年近く、毎日のように激しく動き続けてきた心臓が急に動かなくなると、体は不調和を起こし始める。

要するに、体が生産しようとするエネルギーと、実際に体が消費するエネルギーのバランスが著しく崩れる。エネルギーがあり余った体をどうすることもできず、表現を選ばずに言うと、暴れ出したり、叫びたくなる衝動に駆られる。

私の場合、ひたすらランニングすることでそのエネルギーを消費した。毎日10キロメートル以上、日によっては20キロメートル走る日もあった(ちなみに、それによって体重が10キログラム以上減ったので、一石二鳥だった)。経験上、急に動かなくなることは体にとってよくない。最初は急激な体の変化を起こさないために、適度な運動を続けたほうがいい。

2つ目は、脳の変化だ。プロ野球の場合、毎日試合がある。それがたとえ2軍でも、結果を出すために必死になるし、冒頭で書いたように連綿と続く勝負の日々が途切れることはない。プレッシャー、緊張、不安、恐れ、悔しさ、怒りといった感情も、喜び、快感、爽快さ、自信、誇りといった感情も、心の振れ幅という絶対値で見ると、総じてストレスである。

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