日本人市民が見た「イタリア都市封鎖」のリアル 休校から「外出自粛」で生活はどう変わったか

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同時に、どうにかしてこんな状態を食い止めたいと、「家にいよう」(イタリア語ではResta a casa)という言葉がSNSであふれかえるようになった。医療の現場からも「私たちはここで頑張る。みんなは家にいて」と写真付きメッセージが発信された。フラッシュモブ(ゲリライべント)で、最前線で頑張ってくれる医療スタッフ、救急隊員に拍手を送ろうという呼びかけ、少しでも気持ちを明るくしようとバルコニーで思い思いのパフォーマンスをする人たちの様子もSNSにたくさん投稿された。有名アーティストやシェフたちも、家にいるしかできない人々が楽しめるよう、音楽やレシピ動画を公開してくれている。

「家の大掃除をしよう」と思うものの…

私は、強制的ではあるにせよ、せっかく時間がたっぷりできたのだから、本を読んだり映画を見たり、自分をブラッシュアップしよう、いつもはできない家の大掃除をしよう、などと思うものの、SNSやテレビでずっとコロナウイルスのニュースばかり追ってしまう。いつもは睡眠の質が落ちるからスマホは消して寝るようにしているのに、今は気になって夜中に起きてもすぐに手にとって最新ニュースをチェックしてしまう。楽しく過ごそうと思って明るい音楽をかけても、ふとした拍子に涙が流れたりする。毎日毎日SNSやテレビにあふれかえる悲惨なニュースで、心がヘトヘトになっている。

感染しても8割ぐらいの人は無症状で、重症化するのは高齢者がほとんどと言われているが、既往症がある場合は別というので、私は少し心配してる。娘がぜんそく持ちだからだ。それで、勉強しろという決まり文句に加えて、野菜をもっと食べろ、暖かくしろとガミガミ言ってしまう。万が一感染しても、免疫力が高ければ発症しない、発症しても軽症だということだからだ。

高校生の娘、オンライン授業中。ちょっとお行儀が悪くてお恥ずかしい(筆者撮影)

いつ再開されるかわからない学校では、オンラインの授業やメールでの宿題のやりとりが開始された。でもそれはパソコンが家庭に少なくとも1台はある、というのが前提だ。総スマホ時代の今、所得の低い家庭や移民の家庭など、自宅にパソコンがあるとは限らない。そんな子どもたちは一体どうしているのだろう? そしてずっと家にいて友達と遊ぶこともできない子どもたち、若者たちは、有り余るエネルギーを持て余している。

今の時点では、休校措置は4月3日まで。だが、もはやそんなに早く収束するとは誰も思っていない。ウイルスが完全になくなっていない状態で学校が始まってしまえば、再び感染が増大する危険があるからだ。

だから日本の皆さんも、イタリアが払った、この恐ろしいまでの高い授業料を、決して無駄にしないでほしいと思う。学校が休みになるのはなぜなのか、外で遊んじゃいけないのはなぜなのか、レストランが営業を止め、経済を滞らせても守りたいものは何なのか、よく考えてほしいのだ。

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コロナウイルスの怖さは、自分が感染することはもちろんだが、感染に気づかずに誰かにうつしてしまい、どんどん感染者が増えてしまうこと。その誰かの中に、自分たちの大切な人がいるかもしれないのだ。若くて健康でも、何かの理由で重症化してしまう人もいるかもしれない。

「明日、抱きしめ合えるように今日は離れていよう。明日、もっと走れるように、今日は立ち止まっていよう」。国民の命を守るために経済の大損失と批判を覚悟でこう言い、ヨーロッパで最初にブロックアウトの英断を下したイタリアのジュゼッペ・コンテ首相の言葉は、党派を超えてイタリア国民の胸に響いた。だからほとんどの人が家にこもり、苦境を乗り越えようと我慢の日々を送っている。

宮本 さやか フードライター

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みやもと さやか / Sayaka Miyamoto

1996年より、イタリア・トリノ在住。イタリア人の夫と娘と暮らしつつ、ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。一方、イタリア料理教室、日本料理教室、そしてイタリアの人々に正しい日本の食文化を知ってもらうためのフードイベントなども行っている。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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