「満員電車は死ぬぞ」コロナでロンドン市長訴え 外出制限でも地下鉄は運行、通勤者で混雑

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ところで、3月23日のジョンソン首相によるコロナ禍に関する演説をめぐっては、多くの報道機関が「外出禁止令」と報道した。外出は「食料品を買う、医療機関に行くなど最低限の目的」に限られ、街での行動は「同居人とのみ2人以内で」などと極めて制限が大きく、違反者は警察による取り締まりの対象となる。国民にかなりの不自由を強いる首相の「指示」は、演説を聞いた報道各社が「禁止令」と書くのも無理もない。

しかし、現状のルールでは「必要な職場などへの勤務」は認め、職場の証明書なしに公共交通機関で移動することもできるなどの柔軟性を維持している。そのうえ、実は首相は演説全編を通じて「命令」とか「禁止」の類いの言葉は一度も口にしていない。現状では「首相によるウイルス拡散防止を強く求めるための国民に対する協力の強いお願い」であるといえる。

ラッシュ時に乗れば「もっと人が死ぬ」

言い換えると、本当の意味での完全な「外出禁止令」――買い物に行く距離は制限、どこかへ行く場合は許可証が必要、違反すると高額の罰金、ジョギングの距離も限定といったより厳しいもの――が出てしまうと、ついには社会の動きが止まってしまう。そうならないためにも、政府や自治体は「電車も動く、買い物もある程度行ける」といったギリギリで緩めた現状ルールを使って社会の安定を維持したいと考えているわけだ。

地下鉄は運行本数が減らされており、混み合う列車が出るのが目下の問題だ=3月19日、ヒースロー空港行きピカデリー線車内(筆者撮影)

しかし、必要以上に通勤をしてしまっている人々、とくにブルーカラー層が依然として多いというのが実情だ。

テレビ演説の翌24日も、朝方のベッドタウンから都心に向かう地下鉄各線は、間引き運転の影響もあって普段同様の混雑を呈していた。「2mのソーシャル・ディスタンシング」どころか、「これでは、私の健康に大きなリスクがかかる」(市内中心部の病院に通勤途中の看護師)という苦情を口にする人もいる。

マット・ハンコック保健相は、ロンドン交通局に対し「混雑解消のために地下鉄の本数をもっと増やすべきだ」と訴えている。

だが、ロンドンのサディク・カーン市長は「本当に出かけなければいけない仕事でなければ家から出るな」「どうしても必要であればラッシュ時には乗るな」「こうしたルールを守らない限り、さらに多くの命が失われることになる」と強調。イギリスBBCは、市長が「地下鉄移動をやめなければもっと多くが死ぬ(stop Tube travel or more will die)」と警告したと、ショッキングな見出しで報じている。

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