「不謹慎」と他人を叩く人たちが映す深刻な問題 コロナの自粛ムードまとう「同調圧力」の危険

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現在、「巣ごもり」によるメンタルヘルスへの影響が世界各国で懸念されているが、「自律性と個性」の危機が作り出す不満と嫉妬のスパイラルにも注意が必要だ。

だからこそ軽はずみな対処法は避けなければならない。「犯人」を見つけてたたき出したりすることである。

公衆衛生学者のハンス・ロスリングらは、そのような人間の傾向を「犯人探し本能」と命名した。誰かを責めれば物事は解決すると思い込むことであり、ほかの原因に目が向かなくなってしまうために、将来同じ間違いを防げなくなってしまうと警告を発した(ハンス・ロスリングほか『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』上杉周作・ 関美和訳、日経BP)。

新たな法規制への抵抗感が低くなるかも

新型コロナウイルスの起源をめぐる米中の争いが典型といえよう。中国はアメリカ軍にウイルスを持ち込んだ疑いをかけ、トランプ大統領などは「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と返す。マクロレベルでは「自然の都合」が世界経済を大きく揺るがし、超大国同士を子どもじみたケンカに向かわせる。ミクロレベルでは、市民の間で「誰がルールを破ったか」「誰がウイルスをばらまいたか」といった犯人探しに傾倒する。

すでにいくつかのメディアが報道しているが、イスラエルは感染者の行動を追跡することを可能にするため、防諜機関であるイスラエル公安庁がスマートフォンの通信データを傍受できるようにした。

「安心」のために「プライバシー」(個人の秘密)を犠牲にする方向性だが、現在のような疑心暗鬼と恐怖感で張り詰めた空気が継続すれば、新たな法規制に対するわたしたちの抵抗感はかなり低くなるかもしれない。

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これは、自発的な「分割統治」(被支配者同士の対立をあおり立てて、支配者への批判をかわす統治手法)のようなもので、国の防疫体制などの方針に対する批判や国民的な議論をも吹き飛ばしかねない。最悪の場合、危機に乗じて国は「国民の安全」を大義名分に個人の監視を合法化してしまう可能性もあるだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックに伴う「安心」と「自由」をめぐるジレンマは、多様な局面においてわたしたちの人間性を試す厳しい試練になろうとしている。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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