コロナがアメリカ映画館に招く「最悪シナリオ」 「劇場で映画観る文化」は終わるかもしれない

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メジャースタジオに頼らない、インディーズや外国語映画をかけているアートハウス系映画館も、決して人ごとではない。コロナで一時中断されたからといってディズニーが実写版『リトル・マーメイド』の製作そのものをやめることはないだろうが、あちこちから投資家を募っているインディーズ映画には、タイミングに水を差されて崩壊してしまうものがいくつも出てくると思われるのだ。

そもそも、儲かる確率が決して高くない映画への投資には、見えが大きい。株価が暴落した今、「あの俳優の次の映画に僕は金を出しているんだよね」と言いたいがためにお金を出そうとしていた人は、連日の株価の急落でそれどころじゃなくなっているかもしれない。

はたして映画館は生き残れるのか?

映画祭の中止も響く。映画祭は、フィルムメーカーにとって批評家に自分の映画を発見してもらい、配給会社とのマッチングを行える機会だ。現段階で、カンヌ映画祭事務局は、まだキャンセルを決めていないものの、隣町ニースの市長が感染したこともわかったし、5月半ばの開催はどう考えても現実的ではないだろう。

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その後のベネチア映画祭も、イタリアに回復の兆しが見えるようになっていたとしても、映画祭をやれるほどの余裕があるかどうかは疑問。その直後のトロントは、カンヌやヴェネツィアがどうなるかわからない以上、読めない。そうなると、すでに完成している良作も埋もれてしまいかねないのだ。それはすなわち、「やっぱり映画っていいな」と、人々に感じさせるチャンスが、ますます失われるということである。

映画館に映画を観に行くという文化は、これまでずっと世界中で生き続けてきた。テレビが登場したときも壊されなかったし、近年のストリーミングの台頭にも負けるものかと戦ってきている。だが、今、目の前にある危機は、未曾有かつ巨大だ。この激しい嵐はいつ過ぎ去るのか。そしてそれが去った後その荒地には、映画館が残っているのだろうか。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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