少年野球を救う新潟県の「野球手帳」の存在感 県内の野球界を一つにした取り組みとは何か

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ことの始まりは13年前にさかのぼる。新潟市に本格的な県立野球場建設の機運が高まった。県内の野球界全体がまとまってこれを推進するために、2007年に社会人から大学、青少年野球までが結集した(のちに独立リーグも参加)新潟県野球協議会が発足した。

その尽力もあって2009年に念願の「HARD OFF ECOスタジアム新潟」が完成した。

「HARD OFF ECOスタジアム新潟」(筆者撮影)

2009年2月に新潟スポーツ医学研究会のシンポジウムが行われた。このシンポジウムの主催者は、新潟リハビリテーション病院院長で整形外科医の山本智章だった。

「私はこのシンポジウムで、スポーツと医療の交流会をやりたいと思ったのです。そこでテーマは『新潟の野球を底上げするための現場と医療者の交流』としました。

新潟県高野連、中体連、学童野球の代表者を集め、医療側から医師や理学療法士も参加して、研修会を開催しました。特別講演の講師には徳島大学の柏口新二先生をお呼びしました」

徳島大学・ 国立病院機構徳島病院整形外科の柏口新二は、野球肘など野球障害研究の第一人者。徳島県下の少年野球の障害を長年調査し、日本の少年野球の健康被害について警鐘を鳴らしてきた。研修会の参加者は大きな衝撃を受けた。

研修会が契機となり、NYBOCが発足される

「研修会が終わって懇親会の席上で、新潟県中体連の石川智雄先生から“昔、四国で選手に配る健康手帳のようなものがあって、選手の身体の記録や、練習内容などを記入していたようです。新潟でもできないですかね”という話があったんです。この話が、新潟県の野球手帳の作成につながったんですね」

この研修会が1つの契機となって、2011年には新潟県青少年野球団体協議会(NYBOC)が発足した。NYBOCには、高野連、リトルリーグ、リトルシニア、ボーイズ、ポニー、ヤング、中体連少年部、スポーツ少年団学童部、県女子野球連盟と、男女、硬式軟式を含めたすべての青少年野球団体が加盟した。こうした協議会を県高野連が中心になって組織化することは、当時としてはかなり異色だった。

NYBOCは、「少子化や野球離れを始めとする変わりゆく野球事情に危機感を持つとともに、今こそ新潟の目指すべきスタイルは何か、保護者の方が安心して大切なお子様を預けられる環境づくりとは何か、それらを団体の垣根を越えて共有したい、そして野球を、スポーツのすばらしさを次世代にも伝えていきたい」という方針を打ち立てた。

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