日本の自動車メーカーの先行きは安定軌道へ《ムーディーズの業界分析》

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 インフラなどの制約要因があるため、少なくとも今後数年間はガソリンと電池を併用するプリウスのようなハイブリッド車が、コスト優位性と利便性によって、電気自動車に対する優位性を維持するとムーディーズは予想している。トヨタは2012年までに電気自動車を投入するとしているが、都市部でのニッチ製品として位置づける意向である。

他に、現在明らかなトレンドとして、所得の低迷、環境規制、エネルギー価格高騰を背景にして、低燃費の小型車へ需要がシフトしている。このトレンドは、小型車や環境対応車の製造をコアの競争力とする日本の自動車メーカーの市場シェア拡大を後押しするだろう。しかし、小型車の利益率は比較的低いため、1台当たりの利益は圧迫される可能性がある。大型車は利益率の高いオプション機器を搭載することが多いため、自動車メーカーにとっては収益性が高い。したがって、市場シェアを拡大するだけでは、日本の自動車メーカーの営業利益率は容易には上昇しない。そのため、少なくとも短期的には格上げにはつながらないだろう。

中国市場が日本の自動車メーカーに与える影響は限定的

中国市場の著しい成長は日本の自動車メーカーにとって重要であるが、短中期的にみて格付けへのポジティブな影響は限定的であると考えられる。中国政府は外国企業による中国自動車製造事業への出資比率を50%以下に制限しており、また、現在実施されている自動車購入奨励策が間もなく終了するとみられているが、同制度により、2010年の需要の先取りがなされた可能性も高いためである。

BYDのF3のような中国メーカーの低価格車が9000ドル程度であるのに対し、トヨタが中国で生産する「カローラ」は約2倍の価格にあり、日本の競合ブランドは価格下方圧力を受けている。日本の自動車メーカー、特にトヨタの、相対的に強固なバランスシートと自動車販売金融部門は中国市場での事業拡大を支えるとみられる。しかし、自動車購買者の半数がローンを組む米国とは対照的に、中国ではローンを利用して自動車を購入する人は10人に1人にも満たないため、日本メーカーの財務基盤の強さが発揮されるには時間を要するであろう。

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