パンデミック迫る「新型コロナ感染」の非常事態 宗教団体を通じた感染拡大の危険性も露呈

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韓国に並んでイタリアでも北部を中心に感染者が急増して、11の自治体が事実上の封鎖状態となった。

またイランでも感染者と死者が増加。ここでも宗教が大きく影響した。首都テヘランの南に位置するコム州が感染者の発生源とされ、ここにあるイスラム教シーア派の聖廟の集団礼拝から広まっていったとされる。いずれも、ヨーロッパ、中東の周辺諸国へ感染を広めている。

そうしたなか、27日にはブラジルで感染者が認められた。南米でははじめてで、これで南極をのぞく5大陸で感染が広がったことになる。

WHO(世界保健機関)によれば、26日時点で8万1000人以上が感染し、中国以外にも40近い国に感染が拡大している。そのうち中国では7万8000人以上が感染、死亡者は2700人を超えている。

パンデミックとなったときの日本はどうなるか

もはやこれはパンデミック(世界的感染爆発)だろう。アメリカのCDC(疾病対策センター)もパンデミックが近いことを認め、同国内での感染の広がりを予測している。WHOのテドロス事務局長も27日に「パンデミックの可能性がある」とし、各国に対応を要求している。SARSの時にはなかったことだ。

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今回の新型コロナウイルスは、SARSに比べて感染力が強いことがわかってきた。SARSは肺に入って重症化し、ウイルスを撒き散らす。しかし、今回は喉などの上気道にも留まって増殖する。それだけウイルスが放出されやすい。

感染者の2割が重症化する一方で、8割は軽症であり、無症状のケースもある。自覚症状のないままウイルスを撒き散らす。だから、誰からどう感染するのか、わからない。

SARSの現地取材では、ホテルや公共施設に入るには、かならず検温を実施していた。それもホテルでは、熱が無いことが確認されると、目印に小さなシールを胸元に貼られた。日本でもそうした検温の対策をとるべきだと考え、繰り返し指摘してきた。だが、発熱の症状もないままウイルスを撒いているのなら、その効果もない。

幸い8割は軽症といっても、基礎疾患をもっていたり、高齢者は死亡のリスクが高くなる。新型コロナウイルス感染者全体の死亡率は約2.3%で、SARSの約10%よりも低いとされる。とはいえ、感染者数が増えれば、それだけ死亡者の数が増えることはいうまでもない。

政府は、この2週間が感染抑止の瀬戸際としているが、それでも感染者が増えることを予測して、優先的な医療体制を整える対策に乗り出している。

SARS流行時では、病院内に収容しきれず院外で命を落とした患者も少なくなかった(2003年、筆者撮影)

感染者が急増して医療機関に一気に押しかけることによって、病院機能が追いつかず、処置が遅れることも十分に考えられる。

院外に置かれたストレッチャーに患者が寝かされていた、SARSのケースのように。そうなると、重症化も進み、命を落とすことも増える。実際にそこで亡くなった老人をSARSの現場で知っている。

すると、いまできることは、自分が感染しないようにすることと同時に、むしろ、もう感染しているのかもしれない可能性も考慮した対策だ。感染していたとしても、絶対に人にうつさないことにも、注意を払う段階にきている。マスクと手洗いは自他共に感染を防ぐ有効な手立てだ。そこにもうひとつ、他人を思いやる本当の意味での“忖度”が必要になる。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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