新宿に点在「昔ながらのカフェ」の変わらぬ魅力 仕事で使えるお店が多いのにはワケがあった

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一方の西口は、明治時代に淀橋浄水場やタバコを生産する専売局淀橋工場が作られたものの、第2次世界大戦前に工場が移転すると、その後はしばらく浄水場ぐらいしか目立った施設はなかった。

しかし戦後、再開発の構想が生まれ、1960年に新宿副都心計画が決定。新宿駅西口地下広場、小田急百貨店、京王百貨店が作られるとともに浄水場は閉鎖され、1971年開業の京王プラザホテルを皮切りに高層ビルが林立するようになる。高層ビルの多くにはオフィスが入り、繁華街という雰囲気が強い東口に対し、西口はビジネス街としての性格を強めていく。

現在、この新宿駅西口周辺には、個性豊かな独立系カフェが豊富にあり、仕事でも使いやすい落ち着いた雰囲気の店が多い。高層ビル街は新宿駅西口から数百m離れている。東京メトロ丸ノ内線西新宿駅や都営地下鉄大江戸線都庁前駅が1990年代後半に開設する以前は、高層ビル街にアクセスするには新宿駅から歩くしかなかった。

高層ビル内のオフィスまで呼ぶのに気が引けた?

クライアントの相手をわざわざ高層ビル内のオフィスまで呼ぶのは気が引ける、と考えた高層ビル街で働く人が多く、底堅い需要があったのではないかと想像する。筆者自身も、新宿駅から1~2駅だけ乗ったうえに最寄り駅から10分程度歩いた場所に事務所を構えているので、相手に申し訳ないと思い、新宿駅西口のカフェを打ち合わせで多用する。

新宿駅西口周辺で老舗格と言えるカフェが、「ピース」と「但馬屋珈琲店」だ。

小田急百貨店やビックカメラが入るハルクの1階にあるピースは1955年オープンというから、ハルクを含めた副都心計画が立ち上がる前から存在していることになる。

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ピースと聞いてタバコを思い出す人はいまや少数かもしれないが、歩道に面した大きな窓には世界的デザイナー、レイモンド・ローウィの手により1952年にリニューアルしたピースのロゴマークが描いてあり、外に置かれた青い四角の看板もタバコのパッケージを思わせる。

店内は喫煙可能で、壁やテーブル、いすのしつらえなど、昭和生まれの喫茶店ならではの雰囲気が残る。レジには「cash only」の文字があり、脇にはグレーの公衆電話が置いてある。駅前の雑踏はおろか、令和という時代にいることすら忘れさせる。メニューには飲み物のほか、ホットケーキ、ミートソース、ピラフなどもある。もちろんタバコも販売しており、ピースライトもあった。

利用したのは平日の昼前で、客層はバラエティーに富んでおり、店の歴史と相反するような若い人が次々に入ってきたのが意外だった。店内では打ち合わせをする人、パソコンを扱う人などのビジネス客のほか、読書や世間話をする人などもいて、幅広い層から支持されていることがわかった。

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