日本製鉄の大赤字が示す鉄鋼不況の深刻度 鉄鋼メーカーの国内リストラは序章に過ぎない

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一方、世界の粗鋼生産の5割強を占める中国では、景気対策のインフラ投資増を受けて過去最高水準の鉄鋼生産が続く。その中国勢の買いが鉄鉱石や石炭(原料炭)の相場を下支えしている。

自動車に代表される大口顧客との取引価格は鉄鉱石と原料炭の価格に連動するが、販売量が減少した上に、取引価格に連動しない副原料や物流費の上昇が利益を圧迫する。また、建設向けや海外向けなど市況価格で取引する事業は採算の悪化が直撃する。

JFEHDの柿木厚司社長は2019年11月末、東洋経済の取材で「(業績がよかった)少し前の事業環境には戻らない。むしろ足元の状況がニューノーマルだと思っている」と厳しい認識を示してた。

国内リストラはまだ序章

日本製鉄の右田副社長は「中長期的には国内市場が縮小していく。海外市場も競争激化が避けられない。中国の過剰な生産能力は現在、内需に使われているが、中国の成長が止ると(中国国内生産の鉄鋼製品が)海外に流れ出すことを想定すると、現状の当社の生産能力は大きすぎる」と認める。

日本製鉄の国内の粗鋼生産能力は年間5000万トン強。今回のリストラでその1割弱、500万トンを削減する。設備休止によって影響を受ける従業員は合計約1600人。希望退職は募らず、原則配置転換で対応するが、勤務地が変われば辞めざるをえない従業員も出てくる。協力会社や取引先も含めて地域経済への影響は避けられない。

もっとも、「500万トン(の能力削減)で十分かは分からない」(右田副社長)としており、日本製鉄の国内リストラはこれで「打ち止め」となりそうにない。国内需要は基本的に右肩下がり、海外への輸出も中国勢との競争や貿易摩擦から下押し圧力がかかり続ける。

今回、わずかな生産ライン休止にとどまったJFEも「引き続き最適な生産体制の構築、収益力強化を図っていく」(寺畑副社長)とさらなる国内リストラを見据えている。痛みを伴う方策にどこまで踏み込めるのか。国内鉄鋼メーカーのリストラは序章にすぎない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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