歌舞伎町ど真ん中の「三線専門店」が繁盛する訳 歓楽街に店を置く意外な必然性

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逆風もあった。当時、比嘉さんが販売する三線は、既存のものより安価だった。そのため、同業者から商売敵だとみなされ、「あそこには三線関連の商品を売るな」と、問屋に圧力がかかったこともあった。だが比嘉さんはめげなかった。安価な三線があれば、気軽に始めてみようという人が増える。その中から、より高価な三線を求める人も出てくる。結果的に、皆さんの商売繁盛にもつながりますと丁寧に説明し、同業者の理解を得ていった。

そして満を持して、2002年に東京へ進出したのだった。今やすっかり、三線の愛好者でありながら、伝道者としてその魅力を広め続けている。

三線で人生が変わる人も

「お客さんとのエピソードは、数えきれないくらいありますよ。5~6年前、沖縄旅行中のカップルがお店に来て、三線を体験したらすっかりハマって。東京で三線教室に通いだしたんです。どんどんレベルが上がって、彼女のほうは会社員を辞めて、ミュージシャンに転身したんです。実は昨日もその人のライブに行ってきました。

ほかにもあります。やはり旅行で沖縄に来たフランス人が、エイサーを見て感動して、お店に来てくれました。三線を買って帰国したのですが、沖縄が忘れられなかったのでしょう、1年後に移住してきたんです。今ではすっかり三線のベテランですよ」

そのフランス人は、母国で「パリ三線クラブ」という団体をつくり、普及活動を行っているのだそう。イギリスや台湾にも同様の団体があるんです、と比嘉さんはうれしそうに話す。

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「僕たちのキャッチコピーは『三線を世界に』なんです。三線の文化を、沖縄や歌舞伎町、最近は福岡にもお店を出したので、そこから世界に広めていきたいですね。沖縄や三線に興味がある方なら、誰でもウェルカムです」

店名の「ちんだみ」は沖縄の方言で、チューニングや調弦、音合わせといった意味がある。同時に準備やウォーミングアップという意味でもあるため、「これから三線を始める場所」として名付けたという。三線や沖縄文化を広めていきたい、という比嘉さんの思いが込められているのだ。歌舞伎町と三線、一見すると異色だが、この組み合わせだからこそ実現できる未来を、比嘉さんは目指し続けている。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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