増えている「固定電話恐怖症」の背景と実態 電話対応中に泣き出してしまう社員もいる

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しかし、電話は相手と時間を共有しているので、ある意味、瞬発力が必要で、考える時間も多くはありません。失言したり、思わず意図しない返事をしてしまったときに、修正がきかずに苦しむことがあると、電話で話すこと自体に抵抗を感じるようになってしまうこともあります。

本来、電話はそういうものであり、同じことを伝えるにしても言い換えたり、修正したり、微妙にすり合わせたりを繰り返すことによってお互いの理解度を高めていくのですが、そのプロセスを踏むことに慣れていないので、一度答えてしまったら、修正できないと思い込んでいる節もあります。

あなたも「電話恐怖症」かもしれない

・固定電話の着信音が鳴ると緊張する
・自宅の固定電話にかかってきた場合は基本居留守
・非通知の電話には出ない
・お店の予約はウェブに限る
・友達に電話をする前には必ずLINEなどで確認する
・電話をする前に、一言目のセリフを考える
・留守番電話にメッセージを入れられない
・電話での「間」が耐えられない

上記に4つ以上当てはまれば、電話に対しての抵抗感が強いと言えます。

最近、電話は相手の時間を拘束してしまう悪しきツールと言われることも増えてきました。電話対応自体をなくしてしまう企業も出てきてはいます。確かに同じ時間を共有するという時間指定が、相手を拘束することにつながります。しかし、時間を奪うという点では、文字を打つほうがはるかに時間を要する場合もありますし、記録が残ることで、言葉選びに一層の注意が必要な場合もあります。

また、文字ツールの情報だけでは、なかなか伝わらないところがあったり、ニュアンスも伝わらないため誤解を招いてしまうこともあります。直接、話すことで安心できるというケースもあるので、電話応対がすっかりなくなるということは考えにくく、業種にもよりますが、今後さらに重要視されることも考えられます。

というのも、音声のやり取りがメールなどの文字ツールの補完と考えたときに、電話はより特別なものとなり、高度な対応力が求められるからです。基本的な受け答えはもとより、気持ちを受け止め、心を伝えるための感情伝達ツールとしての役割を担う要素が強くなる可能性も高いのです。これからも社会人スキルとしての電話対応能力が求められていくことと思いますので、苦手だからといって避けては通れないと思います。

自宅の電話には出ないで済んでも、職場ではそうはいきません。克服していくためには、教育が必要になります。昨今は、ハラスメント防止の観点からも「そのくらいのことできないでどうする!?」とハッパをかけるのではなく、できるように教える指導責任が職場にはあります。電話対応に関しては、「そのうちできるようになる」という教育ではなく、圧倒的に少ない経験値を上げるためのトレーニングが必須です。

そのためには、通常メールでやりとりする報告を何回かに1回は電話で行う、メールでは概要だけ送り、詳細は電話で伝える、欠勤の連絡は電話に限定する、などの日々の業務に電話を取り込んでいく必要があります。そして、単にツールを使うトレーニングだけでなく、自分の意思を言葉にして話すといったことも重要で、電話恐怖症をなくすためには、普段のコミュニケーションのあり方も見直していく必要があります。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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