第6回(最終回) 公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団代表理事 小林りん 志の醸成

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様々な経験を積もうと決意した20代

帰国して半年でセンター試験を迎え、東京大学に入学。開発経済を学びたいとの思いから経済学部を選んだ。
 開発経済(特にフィリピンのスラムの経済学)のゼミに所属すると、貧困の実態も分からない人が政府系機関に入っても何もできない、貧困を体感しろというゼミの教授の方針から、フィリピンのスラム街へのホームステイを言い渡された。1週間の滞在だったが、あまりの劣悪な環境に蕁麻疹が出た。そして、以前驚いたメキシコもここに比べれば、たしかに中流だということを理解したという。
 4年生では開発経済の大きな割合を占める農業経済を学ぶため、大和町の兼業農家で農業を体験し、卒論はメキシコ経済について書いた。

しかし卒業後は、外資系の金融機関に就職した。もちろん進路先として国際貢献の公的な機関を考えていたが、就職活動で先輩たちを訪問したとき、日本の公的機関に勤める先輩たちに「うーん、仕事のスピード感などが、君に合うかなぁ」と言われた。
 ちょうどそのとき、当時のボーイフレンド(現在の夫)が、外資系金融機関に就職していて、そこで働く人たちと接する機会があった。その人たちが若いうちから、大きな責任の伴うディールを任されて生き生きと働いている様子が肌に合うと感じ、入社を決めた。
 そのとき小林は、少し遠回りにはなるが、20代は自分の能力を伸ばすことに注力しよう、自分を最大限に成長させてくれるところで働こうと決めたのだ。

入社した外資系の金融機関では、仕事はハードだったが上司とチャンスに恵まれ、成長しているという実感も得られた。結婚もした。特に2年目にはM&Aなどを手掛けるコーポレートファイナンスの部署に異動になり、日米同時上場を果たすディールなども手掛けた。
 目をかけてくれていた上司から「君は営業や接待、交渉などが得意だから、ピープルスキルを伸ばし、いずれマネジメントになるといい」とアドバイスされた。
 確かに、金融機関に勤めながら数字が苦手だったこともあり、アナリストには向いていないと思っていたとき、信頼していた上司からのアドバイスに、自分が今後伸ばすべきスキルや活躍できる分野を知ったという。

当時、ITバブルの時代でもあり、街中の小さな雑居ビルやマンションの一室にあるような小さなITベンチャーが、IPOによって一晩で大きく成長していくのを目の当たりにした。そのとき、ベンチャーの醍醐味はゼロから立ち上げることだと教えてくれた人がいた。何もないところから全て自分で責任を追い、全部リスクをとりながら、自分の理想を追いかけ、仲間とともにつくり上げるのが醍醐味だというのを聞いて、自分もやってみたいと思うようになっていた。自分の成長を考えたとき、そういう道もあるなと考えていた。
 また上司にアドバイスされた能力やスキルも、ベンチャー企業ならフルに活かせるのではないかと考え、その仕事を通して知り合った流通ベンチャーへの転職を果たした。

黒字転換までに3年かかった。心血を注いだ3年だった。黒字化がこんなに大変だったのかという思いを味わった。
 その頃、この事業が世の中に必要だと心底思っている社長に対して、自分が同じレベルの思いを持つことに違和感を持ち始めた。その事業に対する確固たる信念や使命を持った創業者を目の前に、自分が心底信じていることをやりたいと思うようになっていたのだ。
 肩書きや名刺が全く通用しないこの仕事を通じて人間的に成長できたという思いがあったものの、このままでいいのか?という自問自答の時間が続いた。

▼田久保の視点
「ある問題を解決したい」という志を持ちながらも、そのときの自分の置かれた状況や実力では、活躍の場を切り開くことは難しいと冷静に判断。機が熟すまでは徹底的に自分の実力の向上と経験の蓄積、そしてネットワークの構築に力を注ぐ。真の志の実現のためには、このようなやり方、道を積極的に取りに行くという考え方もあるのではないだろうか。

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