第6回(最終回) 公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団代表理事 小林りん 志の醸成

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初心に立ち返り、国際貢献の場へ踏み出す

ちょうどそのころ、カナダのインターナショナルスクールの卒業から10年が経ち、10年に一度開催されるカナダでの同窓会に参加した。高校時代の仲間たちに触れたことで、メキシコでの体験などがよみがえってきた。そこで改めて自分の初心、開発途上国の教育に携わりたいという思いと改めて向き合うことになる。
 そして、帰国すると今度は、大学時代のゼミの先輩の結婚式に出席する機会があった。そこで隣に座った人が国際協力銀行(JBIC)での出向が終わるのだが、その後任の人が決まらないので来ないかという話が出た。
 「これだ!」と直観した小林は、ベンチャーでの仕事に区切りをつけ、その年の8月には国際協力銀行(JBIC)で働き始めていた。

当時の出来事や決断を振り返りながら、小林はこう語る。
 「自分が心にひっかかっていることがあると、必ずそれに応える情報が自分のアンテナに引っかかってくる。そのアンテナがキャッチしたことを信じて、すぐに行動を起こすことが大切なのではないでしょうか」。

国際協力銀行(JBIC)では毎年更新の専門職員として働きはじめたが、国際機関の正規の職員になるには修士課程修了者で32才までいう条件があったため、留学することを同時に考えはじめた。
 合格したら、そのタイミングで留学すればよいと思い受験したスタンフォード大学教育学部国際教育政策学科の大学院修士課程に、JBICで働き始めて一年目で合格し、進学することになった。

大学院修了後、2006年、31才のとき、国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとして、フィリピンに駐在し、ストリートチルドレンや児童兵、児童犯罪者に対するケアプログラムの開発、実施のコーディネート、資金集め、協力者・支援者への報告などを行った。
 そのプログラムで職に就いたり学校に行くことができるようになったりする子供がいたことは確かだ、しかし、フィリピンでケアしなければならないストリートチルドレンの数は約20万人、そのプログラムで1年間にケアできる子供の数は約8000人、できることの限界も感じていた。
 フィリピンでは大学を出ても職に就けない、教育だけでは社会の上にあがっていけないという状況があった。汚職が蔓延し、歴然とした社会格差がある中で、貧困層教育は一人ひとりの人生を多少改善することはあっても、社会的なひずみが全く埋まらないという焦りがあった。
 基本的人権の尊重という意味での貧困層教育は大事だが、高校生のときメキシコで感じた根本的な社会問題を解決する教育の実現となると、理想と現実は程遠いことを痛感した。

悶々とした思いを抱えながら2007年にフィリピンから一時帰国。大学時代の友人で現在、ライフネット生命社長の岩瀬氏に相談すると、岩瀬氏から投資家として活躍していた谷家衛氏を紹介される。谷家氏は長年の投資事業の経験から、世界を変える、日本やアジアを牽引するリーダーを育てたいという思いがあり、議論を重ねる中で、学校をつくろうという話になっていった。
 それを聞いた小林は、自分がこだわっていた教育に携わることができる、ベンチャー立ち上げの経験が生きると思った。そして何よりも「今度こそ自分自身がパッションを感じられる、ベストパフォーマンスを発揮できる仕事だ」と確信した。

▼田久保の視点
一度しかない自分自身の人生について、悩みきり、考えきることの大切さ。改めて書くまでもないが、堂々巡りになったり、解が見つけきれず、つらくなってしまうために途中で考えるのをやめてしまう人も多い。さらに、自分なりの解が見つかっても、その時点で手にしている様々なものを手放せなくなることも多い。そんな時、自分しかできない仕事は何か、自分自身がベストパフォーマンスを発揮できる仕事は何かと問いかけてみる。そんな勇気を持ちたいものだ。

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