第6回(最終回) 公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団代表理事 小林りん 志の醸成

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日本の高校を中退、カナダのインターナショナルスクールへ

現在はISAKの設立準備だけでなく、3歳半になる男の子の母親としても忙しい毎日を送る小林だが、小林自身の幼少時代について聞いてみると「母親は長年市役所で福祉関係の仕事に就き、毎週末ボランティアをしていて、そこに必ず一緒に連れていかれた。ずっと働きながら困っている人たちを助ける母親の姿を見て育った」という。

そして教育に対する思いは、意外にも高校中退から始まった。小林は、進学校としても有名な国立大学付属の高校に入学した年の1学期、苦手だった数学の試験で赤点を取ってしまい、理系の先生からこのままでは国立大学に行けないと言われた。全教科万遍なく成績を上げようとする教育方針に馴染めず、自分のいるべき場所ではないのではという思いが続いた。
 別の道を模索し始めたとき、英語の先生に海外への留学を勧められた。しかしその時点で、ほとんどの海外校への応募が締め切られていたが、ユナイテッド・ワールド・カレッジの(UWC)のメンバー校のいずれかなら3月に試験を受けることができるということを知り、受験、合格した。しかも2年間の学費、渡航費の全額を経団連が負担してくれるという好条件のものだった。

留学を決めた小林だが、日本で学んだ高校受験程度の英語力はカナダでは通用せず、しばらくの間は授業に全くついていけなかった。
 友達もできず、カフェテリアでの食事の時間も苦痛で、最初の3カ月は日本に帰りたいといって泣いている毎日だったが、1年が過ぎたころ、やっと授業が分かるようになると友達もでき始めた。

夏休みのことだった。小林と同じように英語で苦しんでいたメキシコ出身の友人の自宅に、1カ月ほどホームステイする機会を得た。日本では考えられない生活環境にショックを受けたという。小さい、小さい一つの部屋に、家族8人が暮らしていた。
 友人の兄は英語が堪能、様々な時事問題について自説を含めしっかり議論できるような能力を持っているにもかかわらず、高等教育を受けることなく、職業訓練だけ受けて働いていた。それでも友人によれば、その家庭は家もあり皆が職に就いていることから中流だという。
 6人いる兄弟・姉妹の中でその友人だけは本当に幸運で、海外の学校に奨学生として留学する機会を得たというのを聞いて、日本は衣食住だけでなく、教育の面でも多くの選択肢があることにとても恵まれていると実感した。

そして、高校の卒業を控えたメキシコ2度目の滞在では大統領選挙が行われていたが、そこで再びショッキングな光景を目の当たりにする。
 スラム街では住民に「散髪」を施すだけで、選挙の票を獲得することができるという。その一方で、富裕層の家庭は水道などのインフラが整った豪奢な家で生活をしていることに、やりきれない気持ちが広がった。そのとき初めて、この状況に対して何かできないかという思いが湧いたという。
 貧困層の人たちが教育を受けることで、きれいな水も飲めない、教育も受けられない自分たちはどうしてこういう生活をしているのかということを知ったり、理解し考えたりしたうえで投票していけば、社会を根本的に変えていくことができるのではないか、そういう教育の在り方に自分は貢献できではないかと考えた。
 その思いは、いずれ開発途上国の教育に携わりたいという目標になり、卒業後の進路として日本の大学を選んだ。開発途上国の教育といった国際貢献の場に出るには、日本の外務省や政府系金融に職を得る必要があり、それには日本のしかるべき大学に入ることが一番の近道だったからだ。

▼田久保の視点
世の中がうらやむような状況にいても、それを捨て、貪欲に自分のやりたい方向性に向かってチャレンジする熱さ。一方で自分の志の実現に有利な状況を見定め、判断する冷静さ。熱さと冷静さ、この二つの共存の重要さを感じてほしい。

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