24時間営業廃止がファミレスから始まった必然 コンビニなどへ直ちに波及する流れでもない

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現実に深夜に集まって口にしたいものはアルコールであるということと、首都圏でいえば山手線の内側ないしはターミナル駅周辺以外であればファミレスは通常ロードサイドで営業しているということを考えると、2000年代あたりまでのファミレスの深夜需要にアルコールが含まれていたのは事実でしょう。もちろん、飲酒運転は極めて危険な行為であり、絶対に許されるものではありません。

深夜にファミレスにたどり着くころには仲間の大半はソフトドリンクに移行している時間ではあるのですが、とはいえ「飲んじゃいけないから俺さきに帰るわ」というメンバーが出始めたころから、私の周囲でも深夜のファミレスニーズがだんだんと衰退していったように感じます。

そしてもうひとつの要因が企業のコンプライアンス強化。だらだらと残業させない、帰ることができる人から順番に帰るといった指導に加えて、ファミレスのような公の場で仕事の話を大声で話してはいけない(いまでは当たり前ですが当時はこれが当たり前ではなかった)とか、ファミレスに仕事を持ち込んではいけないといった具合に、オフィスの外も仕事の延長といったワークスタイルが公的に否定される時代になったのも大きかったと思います。

働き方改革の時代にもそぐわない

結局、オフィスの外に出てグループで仕事の話をする機会は極端に減少し、その需要はスタバでノートPCに向かって個人がグループSNSに向かって行うような形式へと変容していきました。

こうして徐々にファミレスの深夜需要が衰退していきます。需要が変容し衰退していったからこそ、この働き方改革の時代にファミレス各社の経営陣も「すでに24時間営業の時代ではないのではないか?」と問題をとらえ、その結論として全店での24時間営業を廃止する決断を下す時代が来た。これが今回の流れです。

だからこそ私はこのファミレスの24時間営業廃止はあくまでファミレス業界の特別な事情がからんだ潮流であって、この潮流がコンビニやネットカフェ、深夜営業の居酒屋など他業界へ直接波及するものではないと考える理由です。

もちろん少子化が進み深夜需要自体の大きさが縮小する未来では、そうなるのは2020年代後半だと思われますが、コンビニの24時間営業についてもいよいよ見直しが行われるようになるかもしれません。とはいえファミレスの24時間営業廃止はあくまでファミレス業界の中の話だと私はとらえているのはここで書いたような洞察からなのです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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