ラグビー日本のメンタル変えた女性の凄い手法 選手たちの「どうせ無理」はこうして変わった

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トップリーグ前の東芝対トヨタ自動車の練習試合後、リーチマイケル選手にサインをもらう列が50メートル以上になった(写真:荒木香織さん提供)

男性優位のビジネス界、スポーツ界を変革するリーダーシップ論を女性が唱え、しかも実績を挙げている。この点をとっても画期的だ。

しかしながら、荒木さんは「変革型リーダーシップは、感性がしなやかな女性のほうが身に付けやすいんですよ」と話す。

このことをジョーンズ前HCは知っていたのではないだろうか。

2015年のW杯前に取材した際、メンタルコーチだった荒木さんのお話を聞きたいと申請したら、「カオリはベイビーを産んだばかりだから取材に応じるのは無理」と言われた。非常に驚いた。

「エディーさん、彼女はW杯本番までメンタルコーチを続行されるのですか?」と尋ねたら、「当然でしょ。今までチームをサポートしてきたんだから」とさらりと言った。

しなやかな感性を取り入れられる社会の効用

日本代表のスタッフでありながら、妊娠出産し、そのことをジョーンズ前HCから問題にされていなかった。二十数年にわたってスポーツの現場を見てきたが、そのように女性のキャリアが尊重されるのは希有なことだ。

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国際労働機関(ILO)によると、2018年に世界の管理職に占めた女性の割合は27.1%。日本は12%。主要7カ国(G7)でも断トツに女性が社会進出しにくい国として有名だ。

ビジネス界同様、日本スポーツ界でも女性のキャリアアップは容易ではない。オリンピック日本選手団に占める女子選手の割合は夏季大会では近年おおむね半数で推移し、リオ大会で48.5%。メダル獲得数は男子を上回る。それなのに、選手団のコーチに占める女性の割合はリオまでの3大会10%程度と、状況は12年間変わらない。

女性のしなやかな感性を取り入れられる社会になれば、同時に「パワフルなリーダー像」に苦しむ男性も助かるだろう。

そもそも、スポーツとビジネスは親和性が高い。リーダーがフォロワーと共に組織を前進させ、利益という勝利を求めるビジネスの世界は、スポーツの組織論にも近いロジックで動く。

リーダーシップを鍛え、チェンジ・エージェントになるには……。そんなことを考えながら、ラグビーを観るのも、また一興かと思う。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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