保育園に入れない杉並区、中野区の実情 認可園申し込みの半数が落選、職場復帰も困難に

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同じく中野区に住む佐々木こずえさん(仮名、35)は、「産後ドゥーラ」の資格を取ることで、産後の母親の身の回りを支援する個人事業を始めようとしている。だが、現在、働いていないことから、区が定めた入園基準での指数が著しく低く、認可保育園内定にはまったく手が届かなかった。認証保育園も10カ所に入園の申し込みをしているが、連絡が来ないという。「子どもを保育園に預けることがこんなに大変だとは思わなかった」と佐々木さんはため息をつく。

杉並区でも母親たちが窮状を訴えた

杉並区在住の川島ゆりさん(仮名、36)は、3歳の長女が認可保育園入園の内定を得た一方で、1歳の二女が落選。「下の子が決まらないと職場復帰のメドが立たず、仕事をやめなければならなくかもしれない。そうなると、内定をもらった上の子も入園できなくなる」と頭を抱える。

同じ杉並区に住む三枝かおりさん(仮名、35)は1歳になる長男のために認可保育園と区独自の「杉並保育室」の入園申し込みをしたものの、内定を得られなかった。これとは別に、5つの認証保育園に入園を申し込んでいるが、すべての園から100人以上の待機者がいると告げられた。三枝さんは夫婦共働きなので、杉並区が設けた「保育所入所要件基準表」(指数)では40ポイント(夫婦とも月20日以上、1日8時間以上の就労の場合には各20ポイント)を獲得した。さらに兄弟がいるということで、「調整指数項目」で1ポイントの上乗せを得た。

だが、それでも認可保育園への内定を得られなかった。「下の子の入園が決まらないと、仕事に復帰できない」という三枝さんは、「認可外の保育園を探して入れるしかないかもしれない」と話す。

認可外保育園も入園が難しくなっている

認可保育園に入れなくても、認証や認可外でいいのではないかとの見方もあるが、ともに保育料は認可よりも大幅に高い。そのうえ、最近では空きを見付けるのも難しくなっている。1歳の長女を持つ川口晴美さん(仮名、32)は、「昨年申し込んだ認証保育園6カ所、認可外2カ所がすべてだめだった」という。やむなく職場復帰を延期したが、今年6月には育児休業の期間が切れてしまう。「この間に決まらないと退職しなければならないかも。そうすると指数が下がって悪循環になる」(川口さん)。

もちろん、自治体も手をこまねいているわけではない。杉並区は13年度に認証保育園や杉並保育室を含めて約1000人の定員を増やした。14年度も「600人規模の定員増を実現させる」(白井教之保育課長)という。中野区も新設などで14年度の認可保育園の定員を402人増やす方針だ。ただし、待機児童解消が実現できる保障はない。

杉並区の場合、認可外施設に1年以上預けると調整指数で3ポイント加算される。中野区では育児休業をしていると、1ポイントマイナスになる。こうしたことから、生まれたばかりの子どもを認可外施設に預けて実績を積むなどの苦労をしなければ、認可保育園に入れることができないのが実情だ。子どもを持つ母親の悩みは限りなく深い。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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