ファスト食VS.地産地消でフード離婚 "右”と”左”、なぜ理解し合えないのか

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「大規模に工業化され、劣悪な環境で育てられた動物たちの肉や牛乳は消費したくないということでした」(Bさん)

フランス生まれで、もともとフォアグラやバターなどが大好きだった妻だが、魚やチーズ、一切の動物性食品を食べるのをやめた。困ったのは、小学生の2人の子どもの食生活だ。話し合った結果、妻が夕食を担当する平日はベジタリアン食に、Bさんが担当する週末は肉や魚を食べさせることになった。

「私はガマンできますが、育ち盛りの子どものことは心配。年に数回、私の両親と食事する機会があるのですが、その時くらいは、ベジタリアンを貫くのはやめてほしい。味覚って、その人の育ってきた環境やアイデンティティーに深く関わっていると思うので、否定されると傷つくんですよね」

前出の速水さんによれば、原発事故後、顕著になっているのが、家庭内での分断だ。

「これまで、選挙で夫と妻がどの政党に投票するかはあまり家庭内で話されてこなかったし、決定的な問題にはならなかった。ところが、放射能の食物汚染が問題になってから、食を通じた政治的な主張の違いが大きな対立を生んでいるんです」

家庭内フード左翼は、A子さんやBさんの妻のように、女性の場合が多い。大きなきっかけとなるのが妊娠や出産だ。

有機野菜や自然食品の宅配サービスを行う「大地を守る会」広報の栗本遼さんによれば、子どもを持ったことで食の安全に目覚め、入会する女性が多いという。

「家族の健康だけでなく、消費によって生産者を応援したり地球環境に貢献したりしたいという『エシカル消費』に意識の高い方も多いですね」

ボリュームゾーンは30~40代。首都圏に住む、比較的年収の高い家庭が多いという。

「ライフスタイル誌よりも、経済紙に広告を出すと反応が良い。経済のトレンドに敏感な人たちが関心を持っているように感じます」(栗本さん)

ハラ派とアタマ派

とはいえ、富裕層で情報感度の高い人たちがフード左翼なのかというと、そう単純ではない。アンケート結果を見ると、ふだん高級スーパーで買い物をする人や、ランチに1500円以上かける人は、格差は大きくなっても経済全体の成長を望む新自由主義に賛同する傾向が強い。

「日本のフード左翼は、アッパーミドルが中心ではありますが、新自由主義との相性もいい。ライフスタイルとしてフード左翼的な食生活をしている人もいるので、政治思想的には二つに分かれる」(速水さん)

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