「通勤電車のドア」何カ所あればベストなのか 一時期は6扉や5扉の車両も登場したが…

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混雑時は、このような多扉車は大きな効果を発揮した。しかし、空いている時間帯は座る場所が減るのが難点だ。

片側5扉の京阪電鉄5000系(写真:ゴスペル/PIXTA)

この相反する問題に取り組んだのは、日本初の5扉車として1970年に登場した京阪電気鉄道の5000系だった。この車両は1両の長さが18.7mで、扉の間に窓は1つしかない。座席も当然少なくなるが、ラッシュ時以外は2つ目と4つ目の扉を締め切り、その部分には昇降式の座席が降りてくるというユニークな構造を採用した。しかしこの優れた機構も、ほかの他扉車で使用されることはなかった。

18m車両で4扉の車両も登場した。京急電鉄の700形・800形などだ。これらは普通列車の乗降時間を短くするために4扉とした。どちらもすでに引退している。

近年は標準化の方向へ

これらのようにさまざまなバリエーションが生まれた扉の数だが、近年は標準化、統一化する方向へと向かっている。

JR東日本は2000年、それまで3扉車が標準だった東海道線や高崎線、宇都宮線などの近郊用として、4扉のE231系を投入した。この車両は、それまで別々の設計だった都市部の通勤電車と中距離の近郊用電車を統一設計としたものだ。その後、これらの車両の投入によって東京近郊のJR各線から3扉の車両は姿を消していった。

多扉車も消えていくことになった。ホームドアの導入により、扉の位置を統一する必要が生まれたためだ。山手線や京浜東北線、埼京線、横浜線、そして東急田園都市線からはすでに姿を消し、残るは中央・総武線各駅停車のみとなっている。東京メトロ日比谷線も、ホームドアの導入などにより新型車両は20m・4扉車に変わった。京王の5扉車も早期に引退した。

一方、JR西日本の大阪環状線のように20m・3扉に統一したケースもある。これまで同線用の車両は4扉、他線から乗り入れてくる車両は3扉だった。ホームドアの導入に向けて、4扉ではなく3扉で統一する道を選んだわけだ。

今後、通勤客が今まで以上に増えることは考えにくく、ホームドアの導入促進のためには扉数を統一する必要もある。また、空いている時間帯には座席が多いほうが望ましい。ラッシュ時と空いている時間帯のバランスを考えると、20m車は4扉(または3扉)、18m車では3扉が妥当なところであろう。

長年の試行錯誤が現在の扉数を決め、ホームドアの設置が決定打となって統一が進んでいる。今後は、さまざまな扉数を実験的に設定することはほぼないだろう。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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