左派が反緊縮でなく「消費増税に賛成」する理由 「道徳」として語られてしまいがちな財政問題

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:国家の主権の枠から外れた通貨を、はたして1つひとつの国の人たちがどこまで支えようとするのか。もし外から攻撃されたとき、多くのヨーロッパ人は自分の国のためには死んでも、EUのためには死なないでしょう。EUが作ったユーロという通貨も、うまくいっている間はよくても、危機には弱い存在だと思います。

その意味で私は通貨主権の議論は、グローバリズムに向かうより、ナショナリスティックに解釈するのが自然ではないかと思うんです。

言語と貨幣の類似性

:MMTの課税と貨幣のアナロジーは、他の分野にも使えないかなと思ってしまいますね。「租税を自国通貨で賦課するから、貨幣が国民に求められ、流通するようになる」という話でしたが、同じようなことが例えば言語にもいえるんじゃないかと思うんです。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

ある言語を公用語として国が定め、その言葉で大学入試や公務員試験や行政サービスを行う。高等教育が受けられ、雇用や行政サービスを享受できるようになるということで、その言語が流通するようになる――と考えると、昨今の日本のように「英語化」を進め、大学入試や公務員の雇用、行政サービスも日本語でなくて英語でもよいという流れが続いていくと、日本語が流通しなくなる可能性もあるのではないか。

柴山:なるほど。ドルの使用を国内で認めるようなものですね。

中野:どの国の国語でも、多様な地域言語を国家によって1つの公式言語に統一するという過程を経ていますね。国民としてのアイデンティティーを確立する目的で、ある意味でのホモジナイゼーション(画一化)に向かう。

佐藤:その典型がインドネシアです。オランダの植民地だったという以外、大してつながりのない1万3000もの島々からできている国なので、海上交易のために使われていた「海峡マレー語」を基礎に、インドネシア語という言語を新たにつくることになった。

中野:公式言語の成立と国民国家の成立、自国貨幣の成立は、どの国でもたぶんかなり軌を一にして行われていると思いますね。フランスもフランス革命以前は、今と同じフランス語をしゃべっている人はあまりいなかったらしいです。

佐藤:日本も同じですよ。江戸時代、幕府の隠密が鹿児島あたりに行くと、城には忍び込めても、肝心の会話が聞き取れなかった。まだ標準語がなかったわけで。

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