大ヒットに繋がった映画「ジョーカー」の話題性 芸術的評価や賛否意見が期待感膨らませる

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さらに、昨年の5月19日(現地時間)にカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した是枝裕和監督の『万引き家族』が、10日近くたってすぐに(昨年6月2日、3日)先行上映を実施したことで、最終的に興収約45.5億円という大ヒットを記録している。まさに「鉄は熱いうちに打て」がうまくいった事案だったと言えるだろう。

近年は過激な描写があるR指定のアメコミ作品がヒット。『ジョーカー』もR15+の指定を受ける ©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & ©DC Comics

本作は、アメリカではR指定(17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要)、日本でもR15+(15歳以上が鑑賞可能)ということで、大人の視聴を想定とした作品となっている。近年は『デッドプール』『LOGAN/ローガン』といったR指定のアメコミ映画のヒットにより、表現の幅が広がり、アメコミ映画であっても子どもへの忖度なしに、過激な描写も可能となったという背景もある。

「見ないといけない」を感じさせるテーマ・ストーリー

だが一方で懸念材料もある。かつてアメリカ・コロラド州の映画館では、2012年に『ダークナイト ライジング』(この映画にはジョーカーは登場しないのだが)の上映時に、男が銃を乱射、12人が死亡するという痛ましい事件が起こっただけに、「暴力を誘発するのではないか」「危険な映画なのではないか」として、問題視する声も飛び出したのだ。

実際、ロサンゼルスの映画館では、マスクの着用を禁止し、警察や軍隊が警備体制を強めるといった事態も生み出している。

そうしたニュースは日本でも報じられている。それゆえにツイッターでは、「覚悟して見なければ」「今日は体調が持つか心配」といった声が多数寄せられている。決して楽しいだけの映画ではないことは確かだ。

だが、本作の主人公を取り巻く環境は、格差社会、社会の不寛容さなどが充満しており、まさに現代的なテーマをはらんでいる映画だからこそ、賛否両論が巻き起こっているといえる。まさに「今、見なくてはいけない映画である」と感じた観客が多かったことも、今回のヒットにつながった理由の1つとして挙げられるのではないだろうか。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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