「ジョーカー」大ヒットまでの苦難多き道のり 当初、映画会社からは「狂ったアイデア」扱い

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だが、それ以前から、予告編やポスターに、これがシリアスな映画であるとのメッセージを含ませる努力もしていた。「予告編を見て、こういう映画だろうと思っていたら、実際には全然違う映画だったというのが、僕は大嫌いでね」というフィリップスは、公開の1年前に出した短いティーザー予告編について、「これは2時間の映画をそのまま30秒に収めた感じだろう?」と自信たっぷりに語っている。

「空を飛んだり、派手な爆発があったりする映画だと思って、これを見にきてほしくない。ガッカリさせるのを防ぐためにも、どんな映画なのかを事前に伝えておきたい」という彼の意図は、あの予告編から、確かに伝わってくる。

それらがすべて功を奏し、「今、最も注目を集める映画」となった今作は、この後もまだ伸びが期待できるだけでなく、アワードシーズンの行方によっては、かなり息の長い作品になりそうな気配だ。2019年はスーパーヒーロー映画として初めて『ブラックパンサー』が作品部門に候補入りしたこともあり、今作も2020年のアカデミー賞で同部門に食い込めるチャンスは、十分ありそうである。

主演俳優「アカデミー賞受賞」は手堅い

少なくとも、ホアキン・フェニックスの主演男優部門候補入りは、かなり手堅い。過激なバイオレンスのせいもあり、作品自体へは多少批判的な声も聞かれるのだが、ことフェニックスの演技に関しては、誰もが口をそろえて絶賛しているのだ。

フェニックスは、過去にも2度アカデミー賞に候補入りしている実力派。この役のために20kg以上減量したというのも、後押し材料になりそうである。もちろん、強力なライバルを抑えるためには、効果的かつ大々的なキャンペーンが重要だ。映画をヒットに持ち込んだこの人たちは、そこへどんなアプローチをもって挑むのだろうか。次の動きにも注目したいところである。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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