漢方薬のトレーサビリティ確立に挑む、ツムラが対峙する中国産生薬の安全

漢方薬のトレーサビリティ確立に挑む、ツムラが対峙する中国産生薬の安全

病院で処方される医療用漢方薬市場はここ10年で1・2倍に増え、ついに1000億円を超えた。薬価は断続的に切り下がっているため、数量ベースだと実に1・7倍以上という高成長である。

その医療用漢方薬市場で、8割超のシェアを握るのがツムラだ。2009年3月期は、家庭用品事業の譲渡で減収を余儀なくされつつも、主力の漢方薬が利益を伸ばしてしっかり増益。来期もさらに収益拡大が見込まれる。参入障壁が高い市場ゆえ競合の脅威もなし。このご時世に、わが世の春を謳歌する数少ない企業の一つである。

「育薬」作戦が奏功 外科での処方も拡大

そもそも、伝統的な薬である漢方薬には「新薬」という概念がない。新薬でひとまず稼ぐ西洋薬メーカーとはまったく異なり、1976年に薬価収載されて以来、薬価は下がる一方。そんな閉塞的な環境で好業績を出せているのには、ツムラなりの仕掛けが存在した。“効く”メカニズムを科学的に解明し、西洋薬が存在しない領域で拡大を図る--。「育薬」と名付けられたこの取り組みが、西洋医学の医師たちを振り向かせることに成功したのだ。

調子の悪い部位を局所的に治す西洋薬に対し、全身状態のバランスを整えることに主眼を置くのが漢方薬。植物などを原料としているため副作用も比較的少なく、慢性疾患を得意とする。こうした優れた長所があるにもかかわらず、漢方薬を積極的に使うのはごく一部の専門医に限られ、医療の大半を占める西洋医学の医師たちは、「根拠がない」と使用に二の足を踏んできた。

ならば、“効く”という根拠を解明すればいい。ツムラは大学などと組み、漢方薬が体の中でどのように作用し症状改善に役立っているのか、研究を始めた。

たとえば主力品の一つである「六君子湯」。もともとは虚弱体質患者の食欲改善に使われていた薬だが、北海道大学との共同研究で、六君子湯が食欲増進ホルモン「グレリン」を分泌させることがわかった。すると、抗ガン剤治療の補助剤として食欲減退を抑える目的で、それまで領域外だった外科でも使われ始めた。外科での処方拡大は、ツムラにとっても視野の外だった。漢方薬の出番ではないとあきらめていた領域にも、開拓の余地ありと認識したことで、「育薬」は05年度から販売戦略の基本に据えられたのだ。

08年度第3四半期までで前年同期比77%増と最も高い成長を遂げたのが「抑肝散」。不眠やイライラなどの症状を改善する薬で、小児の夜泣きなどに使われてきた。だが研究により、抑肝散が脳の興奮性伝達物質「グルタミン酸」を適度な量に調節することが解明された。そこでツムラが注目したのが、高齢者を中心とする認知症の領域だった。

認知症は記憶力と判断力が著しく低下し、日常生活の継続が難しくなる病気。「物忘れの症状はごく一部。徘徊や幻覚などといった周辺症状が、患者・介護者双方に悪影響を及ぼす」と、杏林大学医学部高齢医学の鳥羽研二教授は説明する。

これまで周辺症状の改善には、西洋薬である抗精神薬が用いられてきた。しかし、脳血管障害や転倒など副作用を起こしやすく、長期間飲み続けるのは難しい。「漢方薬である抑肝散は、副作用の発生頻度が低い。特に、幻覚を抑える効果の高さが実証されている」(鳥羽教授)。高齢化が進む日本では、今後需要拡大が有望視される。

科学的な解明が進み、市場開拓の余地が大きい漢方薬市場。だが、新規参入を表明する会社はない。


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