韓国「チョ法相」問題があぶり出した世代間対立 1980年代の民主化闘争世代は特権階級である

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チョ・グク氏や文大統領が、一連のスキャンダルについて「違法行為はなかったから問題にならない」として任命を正当化していることに対しても、「合法的に設計された制度でも、いくらでも不平等をもたらすことがわかった」「法的な問題がないという釈明に、86世代の認識の限界を見る」などという批判が出ている。

こうした586世代への不満や怒りが、ソウルの主要大学でのデモにつながった。しかし、586世代はなぜ、ここまで若者に嫌われているのであろうか。

586世代は「銀のスプーン」、若者は「土のスプーン」

学生時代、反体制運動の最前線に立った586世代だが、韓国経済は当時、高度成長期の真っただ中にあったため、卒業後は大手企業などに容易に就職でき、その後も順調な人生を送っている。現在の若者の多くがあこがれる財閥系大企業の正社員になった人の割合が高い。そして今はさまざまな組織の幹部となっている世代である。

皮肉なことに、586世代が批判した独裁者、朴正煕大統領によって実現した経済成長の恩恵に自ら浴しているのだ。また、国会議員に進出した人も多く、激しい与野党対立を演じているのもこの世代だ。

これに比べると、現在の韓国の若者の置かれている環境はひどいものである。大学を出ても、まともに就職できる人は限られており、卒業後も数年間、就職活動を続けることが珍しくない。最近の統計では、15~29歳の青年層の失業率(就職活動中の人を含む)は23.8%にも上るという報道もある。

非正規雇用も当たり前となっている。また不動産価格の高騰もあって、生涯にわたって不安定な生活を送ることになるのではないかという不安に駆られている。恋愛も結婚も出産も諦めた世代という意味を込めた「三放世代」という言葉もある。586世代のような既得権層は「銀のスプーン」、貧しく不安定な自分たちを「土のスプーン」と呼んでいる。

こうした状況に置かれている若者の前に明らかにされたのが、586世代を代表するチョ・グク氏のスキャンダルだった。しかし、若者の怒りはチョ・グク氏だけに向けられるのではない。保守・進歩という政治的党派を超えて、586世代に突き付けられているのである。

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