ビットコインはケインズの夢を叶えるか

「貨幣」から読み解く2014年の世界経済(下)

先行き不透明な状況が続く2014年の世界経済。昨年末に行なわれたFRBによる量的緩和縮小の決定後、日米の株価が上昇したことから、先進国経済が緩やかに成長を続けるとの予測がある一方、新興国通貨の下落や中国経済の成長鈍化というリスクもはらんでいる。
各国が金融政策に神経をとがらせるいま、世界経済の先行きを読み解くために、われわれは「貨幣」の本質について理解を深めなければならないだろう。そこで貨幣論の第一人者、国際基督教大学客員教授の岩井克人氏に話を聞いた。

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ビットコインが「世界中央銀行」を誕生させる?

いま「ビットコイン」が話題になっている。それは、日本名の中本哲史を名乗る匿名の技術者が考案した電子マネーであり、流通を管理する中央銀行をもたないという特徴をもつ。現在、流通量10億ドルにまで成長し、昨年1年間で価格も数十倍に高騰したことで、多くのメディアが取り上げるようになった。

私は、ビットコインそれ自体には、貨幣論的には何の新しさもないと思っている。実際、デジマネーという電子貨幣が1990年代に大いに話題になり、そしていつの間にか消えてしまっている。

ただ、なぜ新しくないかを説明するためには、そもそも「貨幣とは何か」という問いを考えなければならない。貨幣とは「貨幣として受け取られるもの」のことである。この禅の公案みたいな定義が意味するのは、人びとが貨幣を貨幣として受け取るのは、モノとして使うためではなく、それを他の人も貨幣として受け取ってくれると思っているからにすぎないということである。まさにこのような自己循環論法の産物だからこそ、それ自体何の価値もない金属片や紙切れが500円や1万円として流通するのである。

したがって理論上、すべてのものが貨幣になりうる。そして歴史上、貝や革や塩や刀、有名なヤップ島では海底に沈んでいる大きな石が貨幣として使われてきた。時代を経て金と銀、金属を加工したコインが使われ、持ち運びが便利な国家紙幣や銀行券が登場した。その最終形態が、「記号」が貨幣として流通する電子貨幣である。

ビットコインは、中央銀行をもたず、国境を越えて流通するが、そのような貨幣も歴史上、枚挙にいとまがない。日本の通貨史を振り返ると、8世紀に「和同開珎」がつくられ、その後10世紀まで「皇朝12銭」と呼ばれる12種類の銅銭が鋳造されたが、ほとんど流通しなかった。朝廷は蓄銭叙位令(貨幣を多く所持した者に官位を与える制度)を発布して流通を促したが、まじないとして寺院の柱の下に埋められるのがせいぜいだった。

しかし、その間に、日本社会は資本主義的な発達を遂げ、日常的に貨幣を必要とするようになる。12世紀ごろから最初に唐の銭が流通し始め、唐が滅ぶと、今度は宋の銅銭を輸入し、宋が滅ぶと明の銭を輸入した。面白いのは、唐銭も宋銭も明銭も同時に流通したことである。つまり、発行元の中国政府が存在しなくても、その貨幣が流通し続けたのである。まさに貨幣とは貨幣として受け入れられるから貨幣であるという自己循環論法が働いていた。海外に目を転じても、オーストリア帝国時代のマリア・テレジア銀貨が20世紀後半に入ってもエチオピアで使われ続けたという例がある。

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