「中小企業の改革」を進めないと国が滅びるワケ アトキンソン「中国の属国になるシナリオも」

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しかし、残念ながら日本では、経済学者、官僚、経営者という人々でさえ、ほとんど「企業規模」の重要性を理解していません。それをよく示しているのが、日本の製造業の生産性が高く、サービス業の生産性が低いことについての「俗説」です。

この業種による生産性の「差」について、一般的には、「日本人はものづくりに向いているから製造業は生産性が高い」「日本のサービス業は損得を度外視した”おもてなしの文化”があるので生産性が低い」というような国民性をよくおっしゃいますが、これは何の科学的根拠もない思い込みです。むしろ、自分たちが理想とする国民性や文化をベースにした解釈という意味では「妄想」と言ってもいいかもしれません。

では、そのような先入観を抜きに客観的、科学的に分析をすればどうなるのかというと、企業規模以外に答えは見つかりません。日本の製造業の企業規模は平均すると、サービス業の平均よりも2倍以上大きいのです。それだけです。国民性ではないのです。なぜ製造業は企業規模が大きく、サービス業は小さいのかということの理由は、次回詳しく検証します。

「聖域」に踏み込むべき3つの理由

さて、このような「企業規模」の重要性を訴えても、「聖域」である中小企業のこれまでのあり方を変えたくないという反発が予想されますので、日本が国として中小企業改革を断行しなくてはいけない、3つの本質的な理由を挙げておきましょう。

1. 社会保障の負担が増える一方なのに、それを担う生産年齢人口が42.5%も減少するから
2. 日本は他の生産性の高い先進国と比べて相対的に、小さな規模の企業が非常に多いから
3. 人口減少が進行して、生産性の低い企業の割合が自然に減っていかないから

まず、1に関してはこれまでの著書や連載でもたびたびお話をしているので、詳しい説明は不要でしょう。負担が雪だるま式に増える社会保障の費用を捻出するためにも、GDPを縮小させてはいけません。そして、GDPというのは人口×生産性ですので、人口が減るならば、生産性を上げるしかありません。かけ算を習っていれば、小学生でもわかる簡単な理屈です。

そして、生産性を上げるには企業規模を大きくするということが、最も確実で最も効果のある方法なのです。

次の2に関しては、アメリカがわかりやすいでしょう。かの国の労働人口は49.8%が大企業で働いていて、20人未満の小規模事業者で働く労働人口は全体の11.1%にすぎません。つまり、企業規模の大きな会社で働く人の割合が多いので、生産性が高いという、経済の原則通りの現象が起きているのです。

これに対して、日本はどうかというと、大企業で働く労働人口は全体の12.9%で、87.1%の労働人口が中小企業で働いています。また、20人未満は20.5%とアメリカの2倍近い水準なのです。

これだけ小さい規模で働く人の割合が多いということは、どんなに大企業の生産性を上げても、その効果がほかの先進国に比べるとかなり小さく、限定的になるということです。それは裏を返せば、どんなに大企業が賃金を上げて生産性を高めたところで、問題の根幹である「中小企業」の生産性を上げないことには効果がないということなのです。

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