日露交渉「進展」は日本にデメリットでしかない 日本のメディアの的外れな批判は痛い

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日本にとってこれは望ましいわけがない。北方4島は正当な日本の領土であり、他国に不法占領されているというだけの理由でこれらを占領者に割譲することはおかしい。完全な売国行為と言わざるをえない。

それに、日本は領土を放棄してまで、ロシアとの領土問題を「今すぐ」解決する必要はない。領土問題は未解決のままという状態は今の日本にとってどの面(政治、経済、安全保障など)を見ても、何の不利益もない。だから領土を放棄してまで、「解決」する必要はないし、してはいけない。

中露関係は何があっても崩せない

一部の、安倍政権の対露外交を擁護する人たちは、安倍政権の対露政策を弁明するために中国を持ち出す。つまり彼らによると、「日本は中露を同時に敵に回せないから、形だけでもロシアと仲良くする必要がある」。

では、日本がロシアに対して領土を割譲し、無償で技術を提供し、経済支援をしたとしよう。これでロシアの対日認識は変わるのか。変わるわけがない。この場合、ロシアは日本を「いいカモ」としか思わない。では、何らかの形で日中対立が起きたときに、ロシアは中立を保つのか。保つ可能性は極めてゼロに近い。

なぜなら中国とロシアは非常に深い関係にあり、この関係は日本がロシアを支援しても変わらない。今の中露は事実上、日米同盟以上の深い関係にあるのだ。この関係は日本の支援だけで揺るがない。だから日中が対立した場合、ロシアが中立を保つか、中国側に参戦するかの判断材料は1つだけ、それは中国政府の意向のみである。

つまり、中国はロシアに参戦を要請したら参戦するし、中立を保つよう指示したら中立を保つのだ。この場合、それまで日本がどれほどロシアを支援してきたのかはいっさい考慮されない。中国と対立した際、ロシアを中立にさせる術を日本は持っていないので、安倍政権の対露外交は中国の抑止にはまったく役に立たない。

こうした理由から、今の日本メディアにおける、北方領土問題、日露交渉に関する報道(肯定的なモノだけでなく、批判的な報道も含めて)は完全に的が外れている。

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