43歳漫画家「死の淵を2度も経験した」壮絶人生 ある日、障害者になった男が語る心の拠り所

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「僕が死ぬのではないかと気が気ではなかったことを、術後に聞きました」と笑うが、「もし家族からそういう心配をされたり、自分で調べて勝手に落ち込んでいたりしたら、余計なストレスがたまるだけだったと思う」と続ける。

「脳腫瘍と宣告されたときは、目の前が真っ暗になりましたけど、正しい知識を持つ先生や看護師さんのサポートによって、“大丈夫だ”と前向きに思えるようになりました。ドリルで頭蓋骨を外す大掛かりな手術でしたが、当日まで脳腫瘍による頭痛が伴なっていたわけではありません。術前になると不安に襲われましたが、なるようにしかならないだろうと(笑)。むしろ、精神的な不安という意味では、ひき逃げ後の方が深刻だった」

「体が思うように動かない」

脳腫瘍とひき逃げによる心身の痛みを比較できる人など、国内広しと言えどなかなかいない。

「おかげさまで、脳手術後、後遺症も残らず不自由のない日常に戻ることができました。しかし、よりによってまさか……ひき逃げで再び集中治療室に入るとは。目が覚めて、体調が回復していく中で前回と決定的に違ったのは、“体が思うように動かない”という恐怖でした」

ひき逃げの詳細については後述するが、「リハビリをすればよくなる」と思い込んでいたサシダさんの希望的観測を打ち砕くように、一向に身体はよくならなかったという。

「食器を洗うといった日常の行動を含めてリハビリするのですが、驚くほどやりづらくて。退院まで日数が迫っている中で、向上する気配がない。『あ、僕はこのまま野に放たれるんだ』と思うと、ものすごく落ち込みました。裏を返せば、このときはじめて、自分の体の状況を理解した」

日常生活を送るだけではない、仕事にも戻らなければならない。でも、本当に戻れるのか? 不安が襲いかかる中、かつてアシスタントとしてお世話になっていた福本伸行先生(代表作に『賭博黙示録カイジ』『銀と金』など)のもとで、仕事に復帰することができたことは「不幸中の幸いだった」と顔を上げる。

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