菅と麻生、「安倍後」見据えた知られざる暗闘 「影の総理」菅義偉とは何者なのか(上)

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これに対して「岸田政権」が誕生すれば自らの出番が失われると感じ、それを阻止するために動いているのが菅だ。

菅は昨年の自民党総裁選を前に、岸田がなかなか安倍支持を明言しなかった7月初めごろ、「岸田さんには総裁選に出てもらったほうがいいじゃないですか」と安倍に進言したことがある。安倍―岸田関係を分断したいと考えたのだろう。

新元号「令和」の発表で一躍人気者になり、有力な総裁候補と目されるようになった菅だが、自らが首相の座を目指すか否かにかかわらず、「ポスト安倍」政権下でも当然、主導権を確保したいと考える。

一方の麻生は、今年9月で79歳になるものの次の衆院選でも引退せず、自民党第2派閥のオーナーを続ける考えで、やはり「ポスト安倍」政権下でも影響力を維持したいとの意欲は強い。仮に麻生が主導権を取って岸田政権が誕生することになれば、菅はそこからはじき出される可能性が強く、菅にとっては「ポスト安倍」時代をにらんで、今から麻生と岸田の力を削いでおくことは極めて重要なのだ。

麻生の牙城、福岡県に手を突っ込んだ菅

話を菅の「手練手管」に戻そう。まずは、今年4月に行われた麻生の地元の福岡県知事選挙だ。知事選は事実上、現職の小川洋と麻生が擁立した自民党推薦の新人による一騎打ちとなり、現職の小川が圧勝。麻生は選挙後、自民推薦候補が惨敗した責任を取るとして県連の最高顧問の職を辞した。

麻生はなぜ、大きな失点がなかった小川を引きずり降ろそうと考えたのか。そもそも8年前、小川を福岡県知事に据えたのは麻生だったのだ。

話は2016年9月の衆院福岡6区の補欠選挙にさかのぼる。保守分裂選挙となったこの補選で、麻生は自らの盟友である自民党福岡県連会長である県議の長男を全力で支援。小川にも応援に入るよう要請して了解を取り付けた。

ところが、小川は直前になって病気と称して入院。「この俺が頭を下げて頼んだのに病院に逃げ込みやがった」。自分が知事に据えた小川の裏切りに麻生は激怒し、それ以来、予算の陳情に知事が上京しても会わない状態が続いた。麻生は「小川を必ず引きずり降ろす」と周辺に宣言。その言葉どおり、対立候補擁立に動いた。

首相の安倍が「どうみても現職が強いのだから」と小川との和解を進言しても麻生は頑として受け入れず、敗北覚悟の選挙戦に突入した。これには周囲がみな首を傾げ、安倍も「麻生さんも歳のせいか、おかしくなったよね」とこぼした。

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