「天才を潰し秀才を重用した」日本型組織の末路 東條英機はなぜ石原莞爾より優遇されたのか

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ただし農業社会においても、戦争・天災などの非常時においては、慣例を破って大胆な決断をすることが求められます。毎年のように干ばつが繰り返された村が、もっと水のある新天地へ向けて移動を開始する、というような場合です。

エジプトで、長く隷属民として扱われてきたユダヤ人が、モーセに率いられて「出エジプト」を敢行し、パレスチナに移住して大発展を遂げたのはよい例でしょう。モーセのような情報分析能力、決断力に富む指導者は、その決断を「神のお告げ」として人々に伝えました。

このため彼らは神に近い存在とされ、ユダヤ社会では「預言者」と呼ばれました。農耕社会では普段抑圧されている狩猟民的な気質を持つ人物が、危機に際しては指導者として躍り出るのです。後漢末期に農民反乱を起こした張角、百年戦争時にフランスを救ったジャンヌ・ダルクも、このようなタイプの人間だったのでしょう。

狩猟民と農耕民の気質の違い

統合失調症の研究で知られる精神科医の中井久夫さんは、狩猟民的気質を「分裂気質」、農耕民的気質を「執着気質」と位置づけました。

臨機応変に高度な判断を要求される政治家や将官、企業経営者、あるいは芸術家などに向いているのは「分裂気質」であり、これとは反対に、決まったこと、与えられた任務を黙々とこなさなければならない官僚、大企業の社員、兵士に向いているのは「執着気質」となります。あくまで、これは役割分担であり、どちらが優れている、という話ではありません。

直感的にすべてを見通す「天才」と呼ばれる人の多くは、分裂気質です。満洲事変を計画実行した軍人・石原莞爾はこの典型でした。これとは対照的に、コツコツと地道な努力を重ねて成果を上げる執着気質型の努力家は、「秀才」と呼ばれます。

陸軍大臣から首相に進み、日米開戦を決断した東條英機は、まさに秀才でした。帝国陸軍の内部で東條と石原という2つの強烈な個性が衝突したのは、両者の気質を考えれば当然だったのです。

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