専業主婦がいないと回らない日本の「構造問題」 複雑に絡み合う問題を分解する

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中野:ジョブ型正社員と、日本企業における終身雇用に代表されるメンバーシップ型正社員。今後、その両方が存在する企業が増えていくとして、ジョブ型は社内にその仕事がなくなると解雇されうる、という状況ですよね。

中野円佳(なかの まどか)/1984年、東京都生まれ。ジャーナリスト。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。2007年、東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。2014年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。2015年に新聞社を退社し、「東洋経済オンライン」「Yahoo!ニュース個人」などで発信をはじめる。現在はシンガポール在住(撮影:梅谷秀司)

そうなると多くの人は、解雇の不安がない旧来型のメンバーシップ型を選びがちなのではないでしょうか。それでは、日本の会社全般として働き方は改善しないように思います。システム全体をジョブ型に変えていく必要があるのではないでしょうか。

本田:でもいきなり全体をジョブ型に、というのは現実的ではないのではないかと思います。ジョブ型にしていくには、ジョブディスクリプション(その人の職務範囲を決めること)が必要です。

しかし、日本企業の人事自体に専門性がなく、前例踏襲をしてきたために、社員の採用や配置に関する新しい制度や取り組みの導入には腰が引けています。まずは部分的にでもジョブ型正社員を導入し、徐々に拡大していくというステップを踏むことは必要だと思います。

中野:ジョブ型正社員は今までの非正規社員とどう違いますか?

本田ジョブ型は無期雇用です。これまでの非正規は有期雇用ですから、圧倒的に立場が弱かったのに対し、ジョブ型正社員は雇用の安定が得られます。

また、非正規は低賃金である場合が多いですが、ジョブ型正社員はジョブの専門性に見合った賃金が得られることが前提です。もちろん拠点が閉鎖されたら解雇されるなどはありますが、閉鎖されない限りは無期雇用かつ妥当な賃金で働ける。そこに向かって移行していくことが私は必要だと思います。

新卒正社員と非正規社員の間の選択肢

中野:これまでは、総合職正社員でさまざまな福利厚生も終身雇用も享受できた層と、そこに新卒時に入れなければ非正規社員で報われないという二極化をしていたので、その間の選択肢を作っていくということですね。

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ジョブ型でもきちんと処遇され、家庭責任を担う人も、正社員として時間や場所が限定されてもきちんと評価されていくことが大事ですよね。

改善の動きとして、教育・企業間の領域の変化はどうでしょうか。

本田:企業の人の中には、いまだに自分たちが学生だった頃の大学のイメージで、大学時代は何も勉強しないものだという固定観念を持っている人もいますが、大学はいまや以前のようにレジャーランドではありません。大学教育の密度は上がってきていますので、学生たちは単位を取り、学ぶのに忙しくなってきています。

企業側は、採用の際には、コミュニケーション力や熱意といった曖昧なものではなく、「これまで何を勉強してきて、どんなスキルや能力を持っているか」をちゃんと見てほしいと思います。

在学中にきちんと学んでから就職活動ができるよう、できれば大学での取得単位や成績が出そろい、卒業論文も書き終えてから採用活動をするのが望ましいです。現状では、インターンシップなどを通じて採用活動が際限なく前倒しされている傾向があります。

中野:家庭領域については、いまだに多くの女性が子どもや高齢者、障害を抱える家族などのケア、家事、教育などを担っています。男性の働き方や社会構造が専業主婦がいることを前提にしており、働くとしても非正規という場合が多いです。また、正社員になれたとしても一般職的な業務。総合職になれたとしても統計的差別やハラスメント、マミートラック……と問題山積です。男女賃金格差は世界の中でも大きく、なかなか是正されません。

(後編に続く)

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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