授業についていけない「外国ルーツの子」の苦悩 日本語が流ちょうでも勉強は別問題

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淀中学校の有田校長は、外国人の親から言われた「子どもには、私のような生き方はさせたくない」という言葉が忘れられない。

工場で働く親の多くは、給与の中から自国に仕送りをし、残ったお金で生活費や教育費を賄っている。長時間労働のため、日本語を学ぶ時間はおろか、子どもとゆっくり関わる時間すらとれない。非正規雇用で働き、失業と就職を繰り返す親も多い。

「外国ルーツの子どもの問題は、貧困とセットです。サポートが充実した遠くの高校に行けるのは、裕福な家の子だけ。学費は補助で賄えても、通学のための電車賃が払えません」

1万人は教育サポ―トのない状態

学歴重視の日本で高校を卒業できなければ、子どもは貧困の負のループに陥ってしまう。中には、進学が決まっていたのに家庭の事情で働かざるをえない子もいる。日本人との交流はなく、子どもは進学できず、新たな貧困層が生まれていく。「日本人には関係ないこと」と見過ごしたままで、本当にいいのだろうか。

「大人の都合は、子どもには関係ありません。社会の中で自立して生きていく権利は、日本人、外国人ともにあります。われわれは、目の前に子どもがいる限り、1人も見捨てるわけにはいかないんです」。有田校長の言葉には、現場を知る者の切実さがある。

西淀川区のように、学校と地域、行政が連携して取り組んでいるケースは、残念ながら珍しい。学校に外国ルーツの生徒が1人だけぽつんといる場合、多忙な先生たちはとても手が回らない。現在、全国の公立小から高校で日本語指導が必要な生徒は4万人以上いるが、そのうち1万人が何のサポートも受けていない「無支援状態」であることが、文科省の調査でわかっている。

有田校長は、「クラスの担任や校長だけでこの問題に取り組むことは不可能」と言う。「外国ルーツの子どもを支援するには、仕組みづくりが必要です。学校単独ではなく、NPOや自治体など、問題に関心がある人とつながり、流れを作っていくことが大切です」。

取材をする中でわかったのは、外国ルーツの子どもの教育支援が行政主導ではなく、学校やNPOなど「直接子どもと関わる人々の熱意」に大きく依存している現状だ。

支援が行き届かない理由の1つに「問題の認知度の低さ」があると、おおさかこども多文化センターの村上自子副理事長は指摘する。

「外国ルーツの子どもの問題に気づいている人は、ほんのひと握りです。淀中学校のように熱心に取り組んでいるケースは、かなり珍しい。大阪市は昔から在日外国人が多く、他府県に比べると支援があるほうですが、それでも全然足りていません」

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