武田薬品「いいところ取り」グローバル化の限界 クローバック条項で株主提案側の実質勝利へ

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今年の株主総会であまり目立たないが、看過できない問題は取締役報酬制度のうち、毎年の業績と連動して支払われる賞与の基準が、株主に丁寧な説明もないままに変更されそうになったことだ。

具体的には、2017年度までは連結売上収益、コア・アーニングスとともに、1株利益(EPS)をもとに賞与が計算されていたが、今回の会社側提案でEPSだけが「コアEPS」に変更された。ウエバー社長は株主総会で「より適切な指標に変えた」という趣旨の回答をした。

取締役報酬基準をなぜ今、変更したのか

小さいことのように見えるが、実は株主にとっても大きな問題をはらむ変更だ。EPSが純利益を株式数で割って算出するのに対し、コアEPSは事業売却や買収など、会社が非定常的と判断した項目を純利益から除外して算出する。シャイヤー買収があったため、EPSは2017年度の239円から2018年度に113円へ53%減少したが、会社資料によると、コアEPSは逆に29%増加した。

もちろん、非定常的な部分を除いた実質の成長を見るという会社の主張がまったく間違いとはいえないが、財務会計に基づく損益を反映しない数値で取締役の報酬を算出するのが株主にとって望ましいかとなると議論があるところだろう。何を基準として取締役報酬が算出されるのか。また、基準を変更する場合には、株主に丁寧な説明をすべきだが、この点、会社側の説明は十分だとは言えない。

とくに、2018年度は従来のEPSを使うと報酬は大きく減少する計算になる。なぜ変更したかを株主に積極的に説明してこなかった以上、「決算を考えて変更したのではないか」と疑われても致し方ない。

株主総会での報酬制度の変更承認を受けて、株主総会と同じ6月27日に発表された2018年度の有価証券報告書によると、ウエバー社長の報酬等総額は17億5800万円(2017年度は12億1700万円)。うち賞与は6億3800万円(同3億3400万円)だ。

武田の株主はこうした事実を知った上で、今回の株主総会をどう受け止めるのだろうか。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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