武田薬品「いいところ取り」グローバル化の限界 クローバック条項で株主提案側の実質勝利へ

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武田にとっては誤算が続いている。1つは「考える会」の株主提案だ。シャイアーを買収し、グローバル企業を目指す武田であれば当然用意しておくべき取締役の報酬制度を、逆に株主から提案されたからだ。

具体的には、全取締役の個別報酬の開示と「クローバック条項」の導入だ。クローバック条項とは、業績の下方修正などが生じた場合にいったん支払った取締役の報酬を返還させる制度。日本ではまだなじみがないが、アメリカの大企業(S&P500)は2013年時点でも8割が採用するほど普及している。

クローバック条項の狙いは過度なリスクの抑制

クローバック条項の狙いは、取締役が過度にリスクをとることを抑制することにある。欧米企業では、業績に連動して取締役の株式報酬が変動する。その割合を引き上げることにより、会社の成長を促してきたが、その反動で巨額の減損や不正会計が頻発した。経営破綻したエンロンや投資銀行しかりだ。そうした事態を防ぐため、とくに金融危機後のアメリカでクローバック条項が発達した。

日本でも日本取締役協会が2016年10月に出した「経営者報酬ガイドライン(第4版)」でも、短期・中長期の業績連動報酬の比率拡大と同時にリスク管理のための方策の1つにこのクローバック条項を挙げている。

武田との関連で興味深いのは、ガイドラインが「海外投資家保有比率の高い企業」「先進国の企業と互角に戦い、勝ち抜く必要のある企業」などは急激な制度改革が期待されるとしていることだ。シャイアーを買収し、海外投資家の株式保有比率が2019年3月末で50%に達した武田はまさにこうした企業にあてはまる。

全取締役の報酬個別開示も、英米で上場している大企業ではすでに一般化したものなのはいうまでもない。

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