東京電力の新たな再建計画は画餅 原発再稼働が遅れたら料金値上げでは反発必至

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政府と東電の対応には野党だけではなく、与党の自民党幹部からも反発の声が出ている。塩崎恭久・政策調査会長は東洋経済の取材で、「これまでも、政府は本来真っ先に責任をとるべき東電の経営者や株主、金融機関など債権者の責任について不明確、中途半端にしたまま国民負担(東電への無利子融資や機構を通じた1兆円出資など)を決めてきた。今回の対応についても、それは変わっていない」と述べている。

今年中に再値上げ申請の可能性も

東電は今回の新総特で、電気料金の再値上げの可能性についても言及した。柏崎刈羽原発の再稼働開始が14年7月から大きく変化する場合、「値上げ実施は遅くとも14年秋期頃までには必要と見通される」と明記したのだ。

廣瀬社長は「再稼働の遅れ=値上げではない」としたが……

会見で廣瀬直巳社長は、「再稼働の見通しや、費用削減の余地がどこまであるかなど見極めたうえで判断する。再稼働の遅れ=値上げではない」と述べたが、場合によっては今夏にも再値上げの申請を決める可能性がある。

もともとメドが立たない原発再稼働を前提にし、それが達成できなければ料金値上げという計画は、金融機関の要求に応えるものだろう。だが、電気の利用者、税金で東電を支える国民の納得が得られるのかは、はなはだ疑問だ。

東電は、「電力安定供給のための発電のオプションは多様なほうがいい」(廣瀬社長)という理由で原発運営継続の必要性を主張し、国の原発推進政策に期待を寄せてきた。実際、政権を奪還した自民党・安倍政権は、期待通りの方向に政策をシフトしており、東電は再稼働への自信を強めたと思われる。

どこまで合理化を進められるか

再稼働による収益回復を当てにしてきたため、結果的には経費削減など合理化が遅れている。新総特では発電原価の9割を占める燃料費削減を中心に今後10年間のコスト削減目標を1.4兆円上積みしたが、本格的なコスト改革はようやくスタートラインに立ったといっても過言ではない。

包括的アライアンスを通じた燃料費削減や火力発電効率化などは、数土氏が指摘するまでもなく、国際的な企業であれば当たり前の取り組みだ。こうした合理化努力よりも、柏崎刈羽再稼働のための対策が優先されてきた感は否めない。

課題山積の中での就任からか、15日の会見で数土氏は、「私はもう惨めな気持ちになっている」と本音を漏らしつつ、「(総括原価方式に安住しない経営は)やらなければならない」と決意を示した。

原発再稼働が見込めないということですぐに再値上げに動けば、それこそ総括原価方式(電力供給に必要な経費に基づいて料金を決める方式)への安住にほかならない。安易な値上げだと国民が認める事態になれば、数土氏をはじめとした東電経営陣は、改革をやり遂げる前から極めて厳しい境遇に立たされるのは間違いない。

(撮影:尾形文繁)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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