靖国参拝は日本の戦略的利益にとって無意味 ダニエル・スナイダー氏に聞く

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--そのような考え方と安倍首相の推進する「積極的平和主義」の間に矛盾はないでしょうか。

「安倍首相がこれについてどのように考えているか正確にはわからない。だが、私は彼の政策が戦略を作成するために過度に単純化した、大きな欠陥を含んだものに過ぎないと考えている。これについては、日本の状況を踏まえて考えてみよう。日本のリーダーは日本の軍国主義的ビジョンを考えることなどできない。日本が平和維持活動や集団的自衛権の行使、さらには日本の領土を守るためにより積極的になることを望んだとしても、これらによってなんらかの軍国主義が成立するわけではない。

これには明白な根拠がある。最も重要なのは、日本国民がそれを支持しないだろうということだ。軍国主義的な方向へ進むことを希望し、意図したとしても、そこには限界がある。世論調査では、国を守るために戦争に行くことを厭わないと考える日本の若者はごく少数であることが示されている。戦後の平和主義は日本において最も深く浸透したイデオロギーなのだ。

確かに、日本では中国に立ち向かうことが右翼によって盛んに訴えられている。しかし、現実には、争いに向かって彼ら右翼とともに突き進もうという人々は多くはいない。彼らは中国に怒りを持ち、中国に脅威を感じている。また彼らは、中国がある種の覇権主義を追求するために、自らの成長力を乱用していると感じている。私はこれらすべてに共感する。

 「積極的平和主義」には大きな欠陥

しかし、日本人には武器を手にし戦争に向かう準備などない。この種のイデオロギーにはほとんど基盤がないのだ。安倍首相は、このような状況で、彼のイデオロギーを通じて、現在の日本の戦略を打ち立てようとしている。明らかに、主要な問題は中国の台頭だ。私は、国家安全保障戦略と防衛に関する草案のアウトラインを読んだが、これにはたいへん失望した。

これらには、戦略的思考の真の深さと呼べるようなものをまったく見いだせなかった。主なアイデアは、中国をソ連に見立てた「新冷戦」のようなものだ。主な政策は、米国の後ろ盾を維持し、東南アジアにおける日本の役割を高め、インドとの関係を強化することで中国の周辺に封じ込めのためのソフトベルトを維持すること。それ以上のものは何一つない。

問題なのは、われわれが生きているのは「新しい冷戦」などと呼べる時代ではないということだ。冷戦は、ソ連が効果的に世界経済から隔離された時代だった。実際に2つの陣営が存在し、両者の間に相互作用はあまりなかった。西側の同盟諸国は、実際の軍事抑止力を伴った封じ込め政策を実施した。しかし、それはわれわれが中国との間に直面している現実とは異なるものだ。中国は世界経済の中核を成している。東南アジア、さらにはインドでは、積極的に中国市場に製品を流通させる方法を理解しようとしている人々がたくさんいる。これは日本や韓国でも同様だ。

東南アジアの人々は、ある程度、日本がより大きな役割を果たすことを望んでいる。日本が東南アジアを援助し、海洋や領土問題、あるいは、市場アクセスの問題で中国の圧力のバランスをとるのであれば、彼らは日本を支持するだろう。しかし、彼らは対立や封じ込めは望んでいない。日本の戦略方針が中国の「封じ込め」であれば、それはうまくいかないだろう。

日本にとって最も重要なことは、米国がその道を進もうとしていないということだ。米国は関与と備えの方針を実践している。そして日米両国にとって、関与と備えは中国に関与し、同盟システムを持つ必要があるということを意味する。そして、備えとして最も重要なのが日米安全保障条約なのだ。米国は、非協力的な中国に対する備えとして日本に前方展開兵力を配置したいと考えており、独自の防衛と地域的な安全保障における日本の役割の高まりと、ロジックを伴った拡張を支持している。しかし、日本の政策が不必要に中国との緊張関係を高める恐れがあれば、米国はこれを支持しない。また、米国が日本の軍事安全保障の備えの役割を果たすことを想定しながら、中国に関与しようとした場合も同様に米国は日本を支持しないと言えるだろう。そのようなアプローチはうまくいかないのだ。

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