最底辺から抜け出せない!准看護師の49歳女性 「20回以上の転職」の理由はすべてイジメ

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「まったく採用されないで収入と貯金がゼロになったことが3度あって、そのたびに生活保護を受けています。資格持っているのにどうして?ってソーシャルワーカーの人に厳しく言われるので、できれば生活保護はもう受けたくない。だから今、必死に仕事を探しています。今日も明日も、介護施設に面接に行きます」

数年前、東京での生活に限界を感じて九州に帰郷したことがある。実家は両親と弟が住み、家族から「本当に迷惑なんだけど」と何十回も言われたという。実家に居場所はなく、外に散歩に出かけた。小さな商店の前で、中学の同級生にばったり会った。彼女は勇気を振り絞って「〇〇さん、久しぶり!」と声をかけた。

「同じクラスだった同級生がいたので声をかけたんです。そうしたら無言で冷たい目線で、3秒間くらいじーっと見つめられた。それで、シッシッと手で払われました。そのときに、もうここにはいられないって悟りました」

3月まで働いた介護施設は、慢性的な人手不足だった。採用も即決まって翌日から勤務した。一度出勤すると12~36時間帰れない長時間労働だった。36時間労働は本当にツラく、寝不足と疲労で目の前がかすんでくる。家に帰れば、倒れるように眠って起きたらすぐに出勤しなければならない。

厳しい日常を繰り返すしか選択肢がない人生

「孤独がツラくて恋人がほしいって思ったこともありました。婚活パーティーとか街コンとか何度か行ったことがあります。でも、誰からもあいさつすらされないし、ずっと無言で立っていなきゃならない。すごくツラい。

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好みの男性のタイプは岡田准一君です。でも岡田君みたいな人は誰もいない。だから、もう恋人とか男性と知り合うとか諦めました。だから、彼氏いない歴は年齢です。49年いません」

ファミレスで彼女の哀しい独白に耳を傾け、2時間くらい経っただろうか。“岡田准一のような恋人がほしいけど、諦めた”という言葉を最後に話は終わった。地味な色合いのおばさんっぽい服装や髪型など、見た目から変えていけば……というアドバイスがのどまででかかったが、彼女は無職の貧困なのでそんな経済的な余裕はない。

また職探しをして、おそらく不人気なブラックな介護施設に非正規雇用される。厳しい日常を繰り返すしか選択肢がない。49年間、楽しいことや笑ったことがほとんどない人生――ちょっと筆者には想像がつかなかった。会計して彼女は木造アパートがある自宅の方面へ、筆者は新宿行きの急行に乗るために駅へと向かった。

トボトボと歩く甲斐さんの後ろ姿に、苦境から抜け出せる日はくるのだろうか、と哀愁を感じた。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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