アメリカと関係急悪化、「イラン戦争」の現実味 ホルムズ海峡封鎖の可能性も浮上

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こうした中で、トランプ大統領としても看過できない情報がイスラエルから提供された。イスラエル・メディアによると、同国の対外情報機関「モサド」は4月、ホワイトハウスに対して中東のアメリカや同盟国の権益に対する攻撃をイランが画策していると伝えた。

イラクの5000人規模の駐留アメリカ軍に対する攻撃の懸念が浮上し、アメリカのポンペオ国務長官がイラクを予告なしに訪問し、イランを牽制するとともに、イラクの指導者と対応を協議した。

UAE沖でのタンカーに対する攻撃に続いて、サウジアラビアにある石油パイプラインの2カ所が14日朝に攻撃を受けた件では、イスラエルの情報が的中した。

この事件では、イランの影響下にあるイエメンのイスラム教シーア派系武装組織フーシ派が無人機7機でサウジの重要施設を攻撃したと主張したが、イスラエルのテレビはこれに先立つ10日夜、イランがサウジの石油関連施設に対する攻撃を計画しており、イスラエル政府はアメリカ側に情報を伝えたと報じていた。

イラン政府は自制的な姿勢

トランプ大統領と同様にイラン指導部も、負け戦とならざるをえないアメリカとの戦争は望んでいないはずだ。アメリカの制裁強化に対して、イラン政府は5月8日、核合意の履行を一部停止すると発表し、銀行や原油の取引についての要求が60日以内に満たされなければ、ウラン濃縮や重水貯蔵量の制限を破棄すると警告した。

ヨーロッパ諸国など核合意を維持しようとしている国々への対応に期待した措置であり、アメリカの強硬な対応に比べてイラン政府の自制的な姿勢が目立っている。

犯行グループが判明していないタンカー4隻への攻撃に関しては、イランやその関連勢力の仕業と断定するのは時期尚早だ。イランがアメリカに攻撃を誘発するような口実を与える動機はないとの見方がある。

中東専門家の間では、攻撃主体として、イランの影響下にあるフーシ派以外にも、中東での混乱で勢力伸張を画策する国際テロ組織アルカイダ、イスラエルなどイランとアメリカの戦争を望むとされる勢力が戦争を誘発させるための謀略を働いたとの説も浮上している。

この攻撃は、計算され尽くした場所で実行されたことも押さえておく必要があろう。ホルムズ海峡は原油輸送のチョークポイントと言われる。

UAEはこのため、海峡を迂回する形で、アブダビ(ハブシャン油田)からオマーン湾に面するフジャイラまでの原油パイプラインを建設した。攻撃によって、そのフジャイラからの原油輸送も有事には危機に瀕する可能性が示された。インド洋北西部のアデン湾と紅海を結ぶバフ・エル・マンデブ海峡も、フーシ派の脅威下にある。

イランのザリフ外相は4月28日、メディアのインタビューで、アメリカのボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やイスラエル、サウジ、UAEが「アメリカを(イランとの)紛争に引きずり込もうとしている」と主張した。イスラエルなどの一部の中東諸国が、アメリカとイランとの戦争を望んでいるとする見方は少なくない。

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