「日本南西端の島」で最先端の再エネ事業が始動 宮古島が日本のエネルギー政策を変えるか?

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このビジネスモデルの面白いところは、太陽光発電設備およびエコキュートの本体・設置費用は無料であるところ。同費用は、同じく比嘉氏が代表を務める宮古島未来エネルギー(MMEC)社が負担しているのである。ユーザーは屋根とエコキュート設置場所を無料でMMECに貸し、その対価として電気とお湯を低価格で供給してもらう。

市営住宅に設置されたソーラーパネルとエコキュート。導入費用が無料なので住民にデメリットはない(筆者撮影)

2018年度の設置実績は、市営住宅40棟202戸で、太陽光発電能力は1217kW、エコキュートは120台。「これまでにないビジネスモデルなので不安感があるのと、そもそも島民に光熱費削減の意識が低い。そのため、初年度の導入はなかなか進まなかった。この202戸の実績が口コミで広がっていくことで今後拡大を期待している」(比嘉氏)。

今後の計画としては、2019年度に市営住宅100棟600戸(太陽光発電3000kW、エコキュート400台)、戸建住宅500戸(太陽光発電4000kW、エコキュート400台、家庭用蓄電池300台)、事業所50カ所(太陽光発電3000kW、EV充電器400台)、2020年度には戸建住宅1000戸、事業所50カ所に新規導入する計画だ。

家庭用蓄電池は導入費用が高いため、利用する家庭の電気代は27円/1kWhに設定している。EV(電気自動車)充電器は、24時間いつでも自由に使える充電口は有料設置、充電時間をネクステムズがコントロールする充電口は設置無料となる。なお、EVは企業側が自前で用意する。

需要側をコントロールしてピークカット/ボトムアップ

ここでいうコントロールとは何か。実は、これこそが同プロジェクトの一番の鍵となるものだ。先述したが、宮古島では短い需要ピークに合わせて発電設備を整えているため、負荷率が他地域よりも低くなり、それが発電コスト高につながっている。発電コスト低減のためには適正な発電設備で適正な供給をする必要があるが、それにはピークカットとボトムアップを同時に行い、需要を平準化する必要がある。

そこで、ネクステムズが開発したのがクラウド型のエネルギーマネジメントシステムだ。お湯はお風呂や夕食の準備など、夜使うときに沸いてればよいのだから、沸かすのは昼間のいつでも構わない。なので、各戸ごとに沸かす時間をずらせれば電力需要は平準化する。

EVも同じ考えだ。事業者がEVを使う時間に合わせて、ネクステムズ側がほかの電力需要を見ながらEVに充電するタイミングを遠隔コントロールする。そもそも、宮古島は一周100kmあるものの、ビジネスエリア・生活エリアが限られているため、自動車の1日平均走行距離は15kmと短い。1度の満充電で数日間は走行できるので、事業所が休みの週末に充電すれば十分だ。

サトウキビ畑のそこかしこにある散水栓(筆者撮影)

ネムステムズは家庭の給湯、事業所の昼間電力だけでなく、さらに農業用散水栓もコントロールしていく計画だ。宮古島には川がないため、主力産業であるサトウキビをはじめ、農産物の散水には先述した地下ダムを利用している。地下ダムに貯められた水をポンプで地上の貯水池に引き上げ、そこから各畑にパイプで水が供給されてスプリンクラーで散水される。

次ページポンプに使う電力は夏期の需要の約1割
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