日本メディアが報じない南米「PROSUR」の正体 ベネズエラ・マドゥロ包囲組織ではない?

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さらにピニェラ大統領は、アルゼンチンのマクリ大統領にも相談。両者は企業家だった頃から知己の間柄である。アルゼンチンは南米南部共同市場(メルコスール)のリーダー的な存在であるが、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイの4カ国が加盟している同自由貿易協定も膠着状態にある。

しかも、ブラジルのボルソナロ大統領はこの協定の存在を無視して独自に経済発展を図ろうとすらしている。こうした事情を抱えたマクリ大統領にとっても、ピニェラ大統領とドゥケ大統領が提唱する組織の誕生は望むところだった。

地方分権意識と統合しようとするメカニズムが共存

だが、PROSURが目的を果たせるかは、今のところ難しいと言わざるをえない。南米諸国の発展をうたっているものの、現時点ではウルグアイとボリビアはオブザーバーにとどまっている。両国とも、今も左派系の大統領で、ベネズエラのマドゥロ大統領への支持をまだ表明しているからだ。ベネズエラ自体の加盟も微妙だ。フィナンシャル・タイムズ紙によると、PROSURの中心的存在であるブラジルのボルソナロ大統領もそこまで大きな関心を示しているわけではないようだ。

また、コロンビアのサントス前大統領は、PROSURはこれまでの左派系のUNASURから右派系に移行したにすぎないとして、PROSURの成長に疑問を表明しているほか、PROSURは米州機構(OAS)の派生組織のようなものだとも指摘。サントス大統領は政治的イデオロギーや官僚主義がなく、貿易の進展だけを目的として創設され、現在も成長している太平洋同盟を賞賛している。

「ラテンアメリカには歴史的に継続して根強い地方分権意識と統合しようとするメカニズムが共存している」(中南米研究で知られるアナ・コバルビア氏)との指摘もある。つまり、中南米ではほとんどの国がスペイン語を公用語としているにもかかわらず、北米のアメリカのような大きな国家が存在しない。19世紀前半に現在のコロンビア、ベネズエラ、エクアドルと中米の一部を包括した大コロンビアという国家が存在したが、わずか20余年で分裂した。

これが示すように、中南米ではどの国も自国の主権を1つの組織体に譲ることができないのだ。欧州連合(EU)のようにブリュッセルの本部と、欧州中央銀行が加盟国に経済政策を指図するといった組織に発展することがなかなかできない。今回誕生したPROSURははたして、南米の発展を支えるような組織に成長できるだろうか。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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