iPhoneのみで完結できる「Apple Card」の正体 アップルの新クレカは銀行への脅威となるか

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Apple Cardは2019年夏から、アメリカ向けに発行される。なお国際ネットワークはマスターカードをパートナーに迎えている。

アップルはApple Cardを通じて、顧客に対して「より健全な金融生活」を提案した。手元のiPhoneですぐに利用額や返済額を確認することができるApple Cardは、ちょうど画面を見る時間の統計を取るように、iPhone内で消費の傾向が集計されてグラフで表示できるようにしている。

iPhone内で消費の傾向が集計されてグラフで表示できる(筆者撮影)

決済履歴は、アップルの地図データを使い、どの店でいくら購入したかを店のロゴやカテゴリを表示して確認でき、紙の利用明細とは異なる体験を実現している。

こうして消費傾向を「見える化」することによって、消費の見直しなどを毎日意識することができるようになる効果を狙っている。

その一方で、アップルは利用者の明細のデータを収集することをせず、端末の中で集計したり、店舗の情報を明細に付与するとしている。明細データを販売するようなこともないという。先述の明細と地図とのマッチングも、端末内の処理だという。

この点もアップルのプライバシーの基準に合わせてサービスを実現しており、この問題に注目が集まるアメリカ市場では、重要な訴求のポイントになっていくだろう。

銀行への挑戦とも取れるが…

アメリカでは一般的なクレジットカードで、利率は15〜27%程度が設定されており、また大きなリワード(特典)が付いているカードを作るには、より高いクレジットスコア(個人信用力)が求められる。

アップルは今回の発表で、具体的な利率のレートを指摘しなかったうえ、どんな人がApple Cardを作れるのか、という点にも触れなかった。夏までに明らかになると考えられるが、信用力に応じて利率が決まるような仕組みになることも考えられる。

アップルはApple Payについて、セキュリティーの高さを背景に、利用者と加盟店、発行銀行に対して、不正利用の撲滅による不便さとコストの低減を説き、導入を進めてきた経緯があった。

Apple Cardの発行は、2015年以降協力してきた銀行の競合としてアップルが名乗りを上げたことを意味している。しかも、利率を低く抑え、手数料を廃止し、はじめからiPhoneを前提としているApple Cardが奪う顧客は、カード会社としても見過ごせないはずだ。

今後、キャッシュバックやリワード、デジタルでのサービスなどを中心として、アメリカの個人向けファイナンシャルサービスでの競争が激化することが考えられる。

その一方で、リワードが不十分である点、これまで支出管理がクレジットカード訴求にあまり効果的でなかった点、アップルのデータ分析力への期待感の薄さを理由に、さほど大きな影響力を持たないのではないか、と厳しい見方もみられる。

アップルが乗り出した金融サービスが受け入れられるのか、また金融業界がどのような反応を示すのか、夏以降の動向が注目される。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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