政府のポイント還元事業、その「意外な狙い」 増税を機にキャッシュレス決済は普及するか

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予算執行の側からみれば、キャッシュレス決済が普及しない一因である加盟店手数料を下げるように促すことができれば、キャッシュレス決済が進むだけでなく、消費者のポイント還元予算をより多く確保できるメリットがあるのだ。

ちなみに、ポイント還元事業では、消費者がキャッシュレス決済で支払った額に対し、中小の個別店舗には5%、フランチャイズチェーン加盟店には2%のポイント還元を行う。ただし、還元分の全額を国が補助金で出すわけではない。なぜなら、受け取ったポイントを期限までに使わずに失効すれば、消費者には還元されないことを考慮するからである。

不正防止策として還元額に上限

つまり、消費者がもらったポイントのうち失効しそうな分は、国は補助しないのだ。失効率は決済事業者が過去の実績データを持っていればその数字を用いるが、そうでない場合は国が失効率を40%と設定する。加えて、不正防止や高額取引の排除を目的に、決済事業者には消費者への還元額に上限を設けるよう求めている。

要するに、ポイント還元事業に割くことのできる予算には限りがあるということだ。したがって、ポイント還元事業により多く予算を充てるには、加盟店手数料を下げてもらうことが表裏一体になっているともいえよう。

経済産業省は、登録された決済事業者が提示する加盟店手数料などのデータを一覧にして公表することで、手数料を事業者間で比較できるようにして競争を促し、引き下げを強力に推し進める意向である。

このように、キャッシュレス・消費者還元事業は、消費増税対策の一環の事業ではあるが、キャッシュレス決済普及に向けた仕組みが埋め込まれた事業でもあるようだ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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